W2×1　【MiyabihimeA】

　勝手に持ち出してきた写真を１枚置いて説明する。血塗れの壁に、ヒイロは僅かに眉を顰めた。
「次は脅迫者だ。手癖の悪い男はおそらく…”彼”を何らかの理由で脅迫した。金を受け渡しするフリで歩み寄り、躓きを装って倒れこむ。隠し持った両刃の凶器は、吸い込まれるように男の胸に突き刺さった。手入れがいいナイフだったんだろうな。傷口を見ればわかる」
　２枚目の写真が並べられた。トランプを捲るように示された写真には、死体の胸部がアップで写っている。そして３枚目を机の上に置いたデュオの指先が、一点を指し示した。
「ここが現場だ。わざわざ暗い場所を選んで、しかもあの日は寒かった。コートを汚して脱いだか、逆に血を浴びた服の上にコートを羽織ったか。どっちにしても賢い。これじゃ警察がいくら聞き込みしたって捕まえられないだろう」
　犯人を”彼”と呼びながら褒める。その表情は明るく、口調も楽しそうだった。殺人を嫌悪する様子もみせず、他者の研究結果を読み解くようにすらすらと話し続ける。
　部屋の室温が下がったような気がして、ヒイロは空調のリモコンに触れた。ピッと乾いた電子音が響いて、空調の温度が１度上がる。目の前の紅茶に手を伸ばし、迷う指先は結局カップに触れずに戻された。
　こんな写真を前に飲食物を口にするのは、普通でない感覚を持つデュオだけだ。口をつけなかったヒイロと違い、デュオは引き寄せたカップの中身を迷いなく飲み干した。空のカップがソーサーに戻される音が響く。
「この写真は持ち出し禁止ではないのか？」
　固い口調で咎める言葉を吐いたヒイロへ、デュオは肩を竦めてみせる。
「別に問題ないだろ。犯人逮捕に必要だって言えば、たいていのことは許されるんだから」
　いつもそれで通してきた、と言わんばかりの口調だ。シフェルの苦労を思いやりながら、ヒイロは諦めのため息をついた。テレビの音がない室内はしんと静まり返っている。
　４枚目の写真を開いて机に置いたデュオの指先が、とんとん机を叩いた。正確には写真ではなく、写真をコピーしたものだ。サイズからしてポラロイド写真を複写したものだろう。正方形より少しだけ縦長なのだ。
「この”作品”は本当に素晴らしい。今までの２件と違う、本当の芸術品だ。美しい腑分け、理路整然とした並べ方、見る側の意識を絡め取る繊細さ…オレが知る中で最高に幸せな被害者だぜ」
　被害者やその家族が聞いたら非難間違いなしの発言だった。
　画像をひと撫でしたデュオは、また新たな写真を取り出す。
「オレを追いかけてた奴は、生きたまま首を切られた。検死によれば薬物は使ってないが、首筋に小さな傷があった。これは予想の範囲をでないけど、針のようなもので動きを制したんじゃないか？　東洋ではそういう技術があるって聞くし、動けなくなった男に見せ付けるようにナイフを翳して、ゆっくり首を切っていく。こんなによく切れる刃物なのに、５回も刃を滑らせたのは…相手を苦しめるためだ。相当憎まれたようだ」
　デュオを殺そうとした殺人犯の首の断面だった。吐き気を催すような画像も、ヒイロは顔色ひとつ変えずにやり過ごす。唯一、僅かに寄せられた眉が不快さを示す意思表示だった。
「オレが気になるのはここだ」
　デュオの指先が、海辺で殺された３人目の被害者の写真に戻る。岩の上に並べれた皮膚や臓器の中、ひとつの臓器の上で白い指が止まった。
「このメッセージ、オレ宛てかな？って…そうだったらいいな。すごくないか？　これほどの作品を作る存在に認められてるなんて」
　明らかに捜査関係者の言葉として不適切だった。いや、人として否定される言動だ。異常者の烙印を押されかねない発言をする彼の指が示すのは、心臓につけられた２本の線だった。
「これは捌くときについた傷じゃない。現場の検死官じゃわからないだろうが、メッセージとして後から刻まれた。これを見つけた瞬間、本当に震えが来たんだ」
　心底嬉しいのだと満面の笑みで、自慢げに臓器の写真を撫でる。その指先の動きは愛しげで、デュオはひどく幸せそうだった。
「次はお前だってコトだろ？　よかった、オレが”お前”のお眼鏡に叶う存在で…ところで、どこか間違った解釈はあったか？」
　にっこり笑ったデュオがヒイロに語りかける。あまりに普通に言われたため、ヒイロは一瞬反応が出来なかった。
　オレが、お前の、お眼鏡に叶う…存在？
　それは連続殺人犯だと疑う意味ではなく、”ヒイロが連続殺人犯だ”と確証を持って断定されたということ。連続殺人犯であるヒイロに、獲物として選ばれて嬉しいと告げる目の前の男に、ヒイロは目を見開いた。

　　　　　　　　　　　　　　　To Be Continued...

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　はい、連続殺人犯相手にプロファイリング結果の正否を問う捜査官…いろいろ問題ありすぎのでぉです。そこまで直球でくると思ってなかったヒイロは絶句。そりゃそうでしょ、疑われてるとは思っていても真正面から「合ってる？」って聞かれるとは…ｗｗｗ
　5月にまったく更新できなくて、ストレス溜まってたので爆発しちゃいましたｗｗｗ