W2×1　【MiyabihimeA】

　じっと見惚れるヒイロに、デュオは顔を綻ばせた。
「な？　桜に似てるだろ」
　花見の約束をしたのに、緊急の仕事が入ってしまい、結局出かけることが出来なかった2人。しかし近くに花咲いているアーモンドの樹を思い出したデュオが、無理やりヒイロを引っ張り出したのだ。
　真っ白な花は、夜に見れば桜に似ていた。下から見上げた小さな花は、樹の枝いっぱいに咲き誇る。その様は、桜の代わりと呼ぶには見事過ぎた。
「・・・確かに似ている」
　ふっと微笑が零れたヒイロの横顔に、デュオは満足そうに笑った。
「調べたら、山桜ってのは白い花が咲くらしいから・・この花でもお花見出来るだろ？　それに花言葉も気に入ったしね」
「花言葉？」
　いつの間にそんなものを調べたのか。任務で忙しかったのは、どちらも同じなのに・・・。
　小首を傾げて問いかけるヒイロに、三つ編みを編みなおしながら笑顔を向けた。ヒイロはこういった話が好きだ。雑学と呼ばれる類いや、何かの謂れとか・・・知識を吸収することが、基本的に好きなのだろう。195年戦争中も学校に潜伏していたのは、ただ便利なだけではなかったのかも知れない。あの学び舎の雰囲気が、ヒイロにとっては心地良かったのだ。
「そう、桜は『精神美』とか『潔い』って意味があるらしいぜ。『幸（さき）く』って晴れの言葉になってたりしたな」
　晴れの言葉―――すなわち、縁起を担いだ言葉だ。大安など、暦にこだわる東洋人と違い、デュオには理解しづらい考え方だろう。
「アーモンドは？」
　先を促すと、にやっと笑ってヒイロの手を引いた。自分の腕の中に閉じ込めた恋人の額に接吻け、耳元で囁く。
「『希望』『真実の愛』―――ギリシャ神話らしいけど、婚約者に忘れられた王女が死ぬまで彼を想い続けた伝説の花だ」
　言葉を切ったデュオは意味深にヒイロを誘導して、アーモンドの木の前に立たせた。その前に跪くと、デュオはヒイロの左手を恭しく掲げて唇を押し当てる。
「オレは、アーモンドの方が好きだ。ヒイロに捧げる心に、ぴったりだから」
　気障なデュオの言動を見ながら、真っ赤になった顔をそらしたヒイロは、擽ったそうに俯いた。自分の手を掴んだままのデュオは、優しい目で見上げてくる。手をそのままに、そっと膝をついてデュオの首に手を回した。
「ならば、お前も待ち続けるのか？」
「もちろん！　ヒイロが思い出してくれるまで・・何年でも待ってるぜ」
　嬉しい言葉にキスを強請れば、当たり前に与えられる。
　ザーッ、風が起きて白い花が散った。頭の上から降ってくる花びらを見上げ、顔を見合わせて笑う。
　2人の密かな誓いを、アーモンドの白い花が祝福してくれているようだった。
　誓いならば幾らでも・・・この魂を束縛して、繋いでしまえばいい。
　逃げられないくらい、強く―――。

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　花の誓いというより、花言葉みたいになってますね・・・汗
　ヒイロよりデュオのほうが花言葉とか、ジンクスとか調べそう（笑）