W2×1　【MiyabihimeA】

　心臓を狙った刃が左肩に食い込む。ぐっと肩に力を入れたデュオが銃口を犯人の胸にぴたりと当てた。防弾チョッキをつけているのは承知の上、ならばゼロ距離でダメージを与える。一気に５発を叩き込み、背後から取り押さえられる犯人を見つめた。
　その青紫の瞳に感情は浮かんでいない。
「大丈夫か？」
　捜査官の確認にかろうじて頷き、ひとつ大きく息を吐いた。赤い色をしていそうな…鉄さびた臭いの空気を吸い込み、激痛に奥歯を食いしばる。まだ肩に突き立てられたままの刃が、熱と激痛を生み出す。しかし抜けば出血が増えるので、しかたなく呼吸に揺れるナイフの柄を眺めていた。
「医者を呼べ」
「犯人はこっちへ」
　ざわつく病室は人口密度が高く、さらに息苦しさを増すようだった。駆けつけた看護師が悲鳴を上げて踵を返す。入れ違いに飛び込んだ当直医が、顔を顰めて傷の状態を確認し始めた。絶え間なく動く状況をながめながら、当事者であるデュオだけがひどく冷めている。
　捜査官たちに両脇を抱えられた男がちらりと視線を向けた。その顔に既視感がよぎり、直後に思い出す。
「お…まぇ…、痛っ」
　叫びかけて言葉にならないデュオが蹲っている間に犯人は連行されてしまった。動いた所為で刃の角度が変わり、痛みに声が出ない。
「大人しくして！　…安定剤も打って」
　医者に叱られながら、看護師に押さえ込まれる。痛みに顔を顰めたデュオに、注射が２本打たれた。
「ちょ……っ」
　急ぎで伝えなければいけないことがある！　そう告げるデュオの声にならない言葉を読める人間がいない場所で、麻酔と精神安定剤によって意識は急速に失われた。

　受け取った電話で、デュオが再び襲撃されたことを知る。
「…なるほど」
　彼のことだ。犯人の顔を見たフリでもして、敵を招き寄せたのだろう。想像するまでもない事実に苦笑し、ヒイロは手元の資料を捲った。急いで駆けつけても何ができるわけでもない。隣で待機していた捜査官に犯人が逮捕された以上、今のヒイロの仕事はプロファイリングにより共犯者を洗い出すことだった。
　犯人は組織内部にいる。捜査情報を引き出し、防犯カメラの正確な配線図を入手できる者―――デュオの勤務時間などを把握していて…。そこで、ヒイロは唇を噛んだ。
　思い浮かべた人物像に当てはまる、心当たりがいる。
　だが…本当に？
　プロファイリングは学んだ。過去の事例も数多く読んだから、己の知識には自信がある。しかし、デュオのように読み解く能力はまだ高くない。自覚のあるヒイロにとって、思い浮かんだ人物を犯人と断定する証拠はまだ乏しかった。
　証拠集めをしなくてはならない。
　糾弾できるだけの材料をそろえなくては…。
　手元の資料を放り出し、ヒイロは部屋を出た。

　意識が戻って、ぼんやりと天井を見上げる。左肩がだるく、全身が重かった。思考はぼんやりとしており、ゆっくり部屋を見回せば…ここ数日いた病室ではないことがわかる。
　部屋、変わったのか…。
　暴漢に襲われたのだから病院側の配慮かも知れない。そこまで考えて、びくりと肩が揺れる。
　いや、そんな筈はない。すでに犯人は逮捕され、共犯者がいることを認識しているのはデュオとヒイロの２人だけだ。その状況で、なぜ部屋を変える必要がある？　おかしい…。
　注意深く部屋を観察し、一度目を閉じて頭の中を整理する。
　部屋の壁紙や天井の素材は、病院内の一室だと示していた。だがこの部屋は何かが変だった。痛みに拡散しそうな思考を引きとめながら視線を動かし、窓がないことに気付く。
　…地下？
　わずかに右手を動かし、ベッド脇のサイドテーブルの柱を爪で叩いた。響いた金属音を聞きながら、音が反響しない事実を確認する。どうやら地下ではないらしい。
　そこまで考えたところで、意識がふわりと引き込まれた。起きていられない。強制的に意識を引き込む薬の作用に目を閉じ、デュオはゆっくりと瞼を伏せた。

　　　　　　　　　　　　　　To Be Continued...

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　多少展開しましたが、さらに謎が増えるという悪循環ｗｗｗ　もう解決までどのくらいかかるのか、自分でも読めなくなってきました。いや、それはいつもなんだけど…そして書く間をあけると、内容忘れるよね。次に何を書こうとしてたか、忘れるｗｗｗ