W2×1　【MiyabihimeA】

　無駄な会議なら省けば良いものを…。無能者が偉くなるほど、不要としか思えない会議をしたがるのだ。付き合わされることを諦めたレディは達観しているらしいが、気の毒なのは事実だった。
「こっちの事件は、早期解決しないとな」
　有能だが中間管理職ゆえの苦労を背負い込む上司を思い浮かべ、すでに半分ほど照明を落とされた廊下を歩く。こつこつと響く足音を無意識に数えて、いつもの歩数で違和感を覚える。
　…誰だ？
　こちらを見つめるピリピリした視線が、まるで物的な質量をもっているように肌に触れた。気持ち悪い感覚にため息をはいて、自室の方角へ曲がる。後をついて来る気配に、ぐしゃりと前髪をかき上げた。
　自室の隣はすでに不在だ。ヒイロを先に帰しておいて良かったと思いながら、自室のドアノブをまわす。ざらざらした感覚だった気配が鋭くなり、反射的に振り向いた。
　きらりと光る銀―――首筋に感じた熱、生温い水。
　開いたドアにすがるように膝をつき、目の前の人影に銃を向ける。霞む人影へトリガーを引いた。直後、再び銀色の刃物が振り下ろされる。
「っ…」
　銃を持つ右手で続けざまにトリガーを引いて、左手で首を庇うように刃物を握った。頭から首にかけて熱く、刺されたのだろうと他人事のように思う。血が入ったのか、翳んだ視界はまだ回復しそうになかった。引き抜かれた刃が手のひらを引き裂く。
　目の前の人影がゆらりと動いて、ずるずると足を引きずるような音をさせて逃げていくのがわかった。
「…待て、っ…」
　叫ぼうとした喉は言うことを聞かず、代わりに掠れた情けない吐息が漏れる。逃げる犯人へ銃口を向けるが、そのまま床に崩れ落ちた。
「今の音は…」
「何があった！」
　飛び込んできた職員たちの聞きなれた声に目を伏せた瞬間、吸い込まれるように意識が遠のいた。

「…犯人の顔は見たのか？」
　見舞いに来たレディの質問に、首を横に振ろうとして痛みに顔を顰める。長い髪に隠れているが、ナイフは耳の後ろから首に向かって大きく切り裂いていた。20針も縫った傷は深く、しばらくは流動食生活になりそうだ。
　うまく声もでないので、仕方なく手で「いいや」と否定のジェスチャーを送ってみた。呆れ顔の彼女がメモ用紙とペンを差し出すのを受け取って、『NO』と書き込む。その後ろへ『防犯カメラは？』と尋ねれば、斜め後ろで覗いていたヒイロがため息を吐いた。
「電源線が切られていた」
　予想済みの答えだった。防犯カメラに犯行時の映像が残っていれば、顔を見たか尋ねる必要はないのだから。それでも聞いたのは、電源を切っただけなのか、ケーブルを切ったのかを知る為だ。要点を的確に説明するヒイロに感謝しつつ、目の前で居心地悪そうに眉をひそめる上司が気になる。
『気にするなって。これも給料のうちだから』
　差し出したメモは慰める意図より、彼女に呆れてもらいたかったのだが…。デュオの思惑に反し、レディは厳しい顔で立ち上がった。
「しばらく休め」
　お大事になんて言葉を期待してたわけじゃないが、妙に気になる一言だった。普段の彼女らしくないし、明らかに何かを気付いて隠している気がする。何も言わずに見送る２人はレディの足音が遠ざかるなり、顔を見合わせた。
『レディは何か隠してるな』
『調べるか？』
『いや、それより今回の犯人だ』
　テロ対策室にいたヒイロが読唇術を身に着けていると判断したデュオは、確認もせずに話し始める。
『あの身のこなしは警察か軍隊の経験がある。年齢は４０歳代後半、おそらく今回の犯人だ。あと、ナイフを掴んだ手は右。オレが撃った銃弾は大腿部と脇腹を傷つけている』
　一息に犯人像をつげ、痛みに顔を顰めた。
「大丈夫か？」
　声に出して問いかけたヒイロが、気遣うようにデュオの背のクッションを抜いてベッドに横たわる手伝いをする。その仕草はひどく優しく、デュオが居心地の良い角度で寝転ぶと、その隙間に上手にタオルを差し入れた。
『慣れてるなぁ…』
「同僚がよくケガをして入院したからな」
　テロ対策の前線で戦うメンバーにケガや入院が多いのは必然で、大きなケガが少なかったヒイロが手当てに慣れていくのも当然だった。
『気をつけろよ』
　１人で捜査するつもりのヒイロへ、デュオは釘を刺す。承諾を示す頷きを返して部屋を出るヒイロを見送り、大きく深呼吸した。
　
　　　　　　　　　　　　　　　To Be Continued...
　

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予定通りでぉにケガさせて、しっかり入院させました。普段と違ってあっさり刺されるでぉ、しかもヒイロさんが男前！　ちゃんと21ですよ、ヒイロが格好いいけど…12ではないですｗｗｗｗ