W2×1　【MiyabihimeA】

「では、犯人の顔はぼんやりと見ただけですか？」
　別部署の捜査官の質問に、筆談でYESと書き込む。仮にもプロファイリングで名を馳せる捜査官が、安全な筈の本部内で襲われたのだ―――捜査は迅速に始められた。
「もう一度顔を見ればわかりますか？」
　少し考え込んだ後、『たぶん…』と書いて差し出す。
　これは嘘だった。血で濡れた視界の中、相手の顔も性別すら判別できていない。だが、これは捜査にとって大事な布石だった。捜査官たちが挨拶をして部屋を出るのを待って、寝転がった姿勢でゆっくりとドアに背を向ける。
　今回の襲撃が、捜査の中断を狙った内部犯なのは確実だった。デュオがこの事件を担当していること、普段単独で動いていることも知っている。その上で殺そうとしたが、ナイフを使ったのは銃声が響くのを恐れたのだろう。逆にデュオは銃声で人が集まることを狙って撃ったのだが…。
　このあとヒイロが捜査を引き継いだと知れば、今度はヒイロを襲う可能性がある。
　言わずに済ませた内容を、彼は誰よりも正確に理解しただろう。だから余計な心配はしない。苦労しながら痛みに耐えて寝返りを終えたデュオは、微熱に乾いた唇を舌で湿らせた。
　…まあ、ヒイロよりオレの心配だな。
　襲撃犯が内部の者ならば、入院先の病室を調べるくらい簡単にこなす。ましてや顔を見られた可能性がある状況で、オレを再襲撃しない理由がなかった。逆にこちらを狙ってくれないと困るのだ。
　深呼吸して目を伏せる。
　この後の騒ぎを想像し、少しでも身体を休めておきたかった。


　集めた資料を確認し、ヒイロは眉を顰める。
　デュオの執務室前の廊下で防犯カメラの電源線が切られたのは理解できるが、侵入経路や逃走経路と思われる廊下すべての電源線が切られたのは異常だった。多くのカメラの電源を切れば、監視室でチェックされる。だが警告が出るより前に襲撃を済ませるならば、単独犯は不可能に近かった。
　協力者の存在がちらつく。内部の電気配線は複雑なシステムを組んでいる。今回のような襲撃があった際、メインを装った１本を切られても別回線でカメラは作動するように設計されていた。
　すべてを理解し、面倒な手続きをとってカメラをすべて止めたのか？
「…おかしい」
　声に出して確認する。
　そうだ、おかしい。明らかに不自然だった。ここに所属するメンバーは偏りはあるにしろ、一芸に秀でた秀才ばかりだ。つまり一般人と同じプロファイリングは該当しない。自分ならどうする？　ヒイロはゆっくりと深呼吸して気分を落ち着けた。
　俺なら、主要なカメラの電源線をカットして他の場所は放置する。事件が発覚する前に、協力者に『録画データを消させる』方が早いし確実だ。そう…協力者の存在から洗うのが近道だった。
　口元に笑みを浮かべたヒイロは執務室の扉を開き、隣の規制線の前で一瞬だけ視線を床に向ける。たっぷりと血を吸い込んだ床は赤黒く染まっており、デュオのケガの酷さを示していた。大人しく病院のベッドの上で待っているだろう男を思い浮かべ、ヒイロは笑みを深める。
　踵を返した後姿に、こつんと固い足音が響いた。


　点滴の調整を終えた看護師が姿を消してから１５分、小さな物音に目を開く。カーテンを閉めた窓の外は新月なのか、ほぼ月明かりはなかった。暗い室内へ、廊下からの細い光が差し込む。
　やっときたか…そんな感情を押し殺して、枕の下へ手を差し伸べた。慣れた銃の冷たい感触を受けて、ひとつ深呼吸する。寝返りを打つフリで銃を手元に引き出し、音を立てないように安全装置を外した。
　背を向けた先で、足音を殺して近づく人影が立ち止まる。廊下から漏れる光が人影の動きをデュオの前にさらけ出した。ゆっくりと腕を振り上げる動きに、デュオはタイミングを計って向き直る。
　無言で銃口を向けるデュオに慌てたのか、人影が後ずさった。躊躇いなくトリガーを引く。
　パン！　軽い銃声が、さらに軽い引き金を引いた瞬間に響き渡った。
　声を出せない今のデュオにとって、これが叫びの代わりになる。隣の部屋に待機していた捜査官の足音が響き、ドアが乱暴に開かれた。ほっと息を吐いた瞬間、人影がこちらに刃を振り上げる。
「っ…」
　
　　　　　　　　　　　　　　　To Be Continued...
　

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　またまたケガするでぉｗｗｗ　もう彼がケガするのは標準仕様です。ヒイロは痛くて可哀相なのでケガさせたくないけどｗｗｗ
　少しずつですが更新しますね。