W2×1　【MiyabihimeA】

　ドロシーが進めるまま室内に踏み込んだデュオは、挨拶も前置きもなしで核心に切り込む。
「……暗黒時代が再来する可能性がある」
　暗黒の名をいただく中世の数十年―――無辜（むこ）の羊たちが殺された。悪魔祓いとしての力を持つ者も密告と勘違いから人の手で殺され、また悪魔の手で消されたのだ。裏も表も甚大な被害を出したあの時代の幕開けは、魔王と呼ばれた男の存在から始まったと伝えられている。かの魔王は美しい外見を持ち、強大な力で人間を蹂躙した。
　人々は魔王を恐れ、互いに疑心暗鬼に襲われて密告しあったという。
　二度と訪れてはならない魔女狩りの再来を匂わせた悪魔の言霊を、ドロシーはすでに知っているようだった。菫色の瞳を伏せ、小さく嘆息する。
「私には防げない。リリーナ様やカトルにも…」
　表で教皇を担う純粋な少女と裏を纏める青年、どちらも手を出せない。彼と彼女らがいくら動いても、時代の流れを逆行させることは出来なかった。
　神が創りて、人が均（なら）した現世（うつしよ）は―――悪魔により壊される。ドロシーが予知した未来は基本的に変えられず、どんなに自己暗示をかけても変更は認められないのだ。
　哀しそうに呟いた彼女の姿に、デュオはそれ以上何も言葉が見つからずに唇を噛みしめた。
「…神のご意思ではないけれど……悪魔は神の手の外にいるのよ」
　神が創りたかった人の世の光に影が出来た。その影が悪魔であり、魔物である。人を慈しみ育てれば、悪魔も同じだけ大きく広がってしまう。全能を掲げる神をしても切り離すことが出来ない背合わせの世界…。
「邪魔した…」
「いいえ」
　普段は自信満々で傲慢に振舞うドロシーが、今はまるで子供のようにうなだれている。落とした肩にぽんと触れ、デュオは指先で三つ編みをくるりと回した。
「ま、なんとかするさ。そうだろ？」
　悪魔の好き勝手にさせる気はないと強がれば、苦笑いに近い笑みを浮かべたドロシーが頷く。幼い頃から知っている彼女の本質が、ひどく脆いことを知っているからデュオは笑顔を作った。
「魔王並みの力があれば、世界をひっくり返せるんだけどなぁ……」
「……そうね」
　同意とも否定とも取れる預言者の声を背に受け、デュオは手を振って部屋を出る。彼女の予知は、ヒイロの言葉通りの未来を示していた。ならば、悪魔による羊狩りが始まるのは間違いない。
「迷ってる暇はない、か」
　日が昇った廊下の明るさと不似合いな呟きは、沈んだ音を響かせる。歩き出したデュオの足取りは重く、からの左手を見つめる眼差しは暗かった。

　上機嫌のヒイロが森の木にふわりと降り立つ。白い翼をばさりと揺らし、きょろきょろと周囲を見回した。
「五飛？」
「……なんだ」
　少し離れた場所で大木に背を預けていた黒髪の悪魔へ近づき、ヒイロは嬉しそうに頬を緩めた。
「布石を打った」
　黒曜石のような瞳がヒイロを捉え、すぐに口元が弧を描いた。彼の強気で好戦的な雰囲気そのままの笑みは、見る者を惹きつける。好んで纏う白い服の裾を揺らして身を起こした。
「わかった、俺も動く」
　デュオたち人間側を動かすのはヒイロ、逆に悪魔を統率するのが五飛―――同じ目的の為に手を組んだふたりの顔に、ひどく悪魔らしい表情が浮かんだ。ひどく美しく魅惑的で、どこまでも禍々しく不吉な笑み。
「今度こそ」
　成功させてみせる。強い決意を滲ませたヒイロの呟きに、五飛は無言で頷いた。
　目的を果たすために、どれだけの羊が殺されようと死のうと構わない。羊飼いも神も、好きなだけ怨嗟を吐いて呪えばいい。巻き込まれる多くの悪魔が消されることも気にならなかった。
　ただ……取り戻したい過去がある。
　何を犠牲にしても。
「五飛も…」
「ああ、見つけるさ」
　失った片割れを求める五飛の決意を滲ませた同意に、ヒイロはゆっくりと目を伏せた。
　互いの願いが叶うことを祈るように―――。
　
　　　　　　　　　　　　　　　To Be Continued...
　

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　なんとか更新にこぎつけている現状、もうすこし自由な時間が欲しい綾ぬこです。さて、吸血鬼というより、徐々に「悪魔」の表記の方が相応しくなってくる彼らにたいし、カテゴリーを変更した方がいいのか迷う今日この頃。堕天使で悪魔で吸血鬼なのですが……近いうちに長編へ移動する長さになりますね。もしかするとカテゴリー変更するかもしれません。その時は告知しますね。
　※すみません、今移動してきました。考えていたより簡単だったので、すぐに移動です。

　ヒイロも五飛も求めるものの為に、周囲の犠牲を気にせず突っ走っています。
　まあ、彼らが求めるものは大体想像つくと思いますけどｗｗｗ　実際、その通りですｗｗｗｗ　早くラブラブにしたい。いや、愛するもの同士で戦ってもいい（うっとり）