W2×1　【MiyabihimeA】

「……データ化していないのか？」
　検索すれば済むだろうと眉を顰める美人へ、デュオは三つ編みを指先でくるりとまわして苦笑いする。
「残念…ここの資料はデジタル化する前のものばかりだ」
　逆にここの資料以外はすべてデータ化されており、検索で簡単に引っ張り出せる。ここの資料が後回しにされるのは、古い資料であり使用される頻度が低いためだった。
　少なくとも１０年以上前の資料ばかりが収納された棚を前に、ヒイロはうんざりした様子でため息を吐く。逆に楽しそうなデュオは書かれた年数を数えながら棚の中を歩き出した。
「……この辺、かな」
　呟くと１冊の資料ファイルを選ぶ。犯人が特定できず迷宮入りになった連続殺人犯の資料らしい。ぱらぱらと中を確認して、ヒイロに渡した。埃だらけのファイルを嫌そうに受け取ったヒイロへ、次々と選んだ資料ファイルを渡し続ける。さすがに片手では無理になり、両手で抱えたヒイロが顔を顰めた。
「まだあるのか？」
「いや…これで終わり」
　最後の一冊をヒイロの腕の中に押し込み、自らも大量のファイルを抱えて歩き出した。資料室のファイルは基本的に持ち出し禁止になっているため、部屋の隅に置かれた机の上に並べる。パイプ椅子に腰掛けると、デュオはようやく説明を始めた。
「迷宮入りの事件の中に、今回と同じバラし方を好んだ連続殺人犯がいた筈だ。以前にちらりと見ただけだが、死体の状況が非常に似ている。名前は……確かジェイクだったかな？」
　ちらりと見ただけの資料だが、目にした風景を写真のように記憶するデュオの脳裏に浮かんだ資料の表紙に書かれた年は、今から１２年前のもの。興味を惹かれなかったので、きちんと読んでおかなかったのが悔やまれるが仕方ない。
「…その記憶は確かか？」
　まず前提条件から疑ったヒイロに、一瞬言葉を失い…すぐに大笑いを始めた。手で叩いた資料の埃が舞い上がり、最後は涙目で咳き込みながら、デュオは「映像記憶能力ってやつ、知ってる？」とだけ尋ねる。すぐにピンときたヒイロは「わかった」と諦めた様子で資料に手を伸ばした。
　一度見た風景や本の内容を写真で撮影したように記憶し、後から呼び出せる能力だ。一度読んだ本の内容を一言一句間違わずに朗読してみせたり、通りすがりに見た風景を精密に模写できることから、非常に便利な能力と判断されていた。裏を返せば、嫌な記憶や二度と見たくない風景を『忘れることが出来ない』とも言える。
　自らの能力をひけらかすでもなく、デュオは淡々と書類を捲っていく。データとしての整理が発生年月日順だけなので、名前や場所での検索が出来ない。仕方なくヒイロもデュオに倣って、同じようにファイルを開いた。
　しばらく紙を捲る音だけが響き、気付けば窓の外は夕暮れに染まっている。オレンジ色の光と薄暗くなった室内に気付いたヒイロが顔を上げ、照明に手を伸ばした。
　そのとき―――
「あった！」
　デュオが捲る手を止め、指先で文字を追い始める。灯りをつけたヒイロも慌てて近づき、横から覗き込んだ。
「……３月４日、この事件が一番似てるな」
　保管された証拠物の整理箱番号を確認し、デュオはそのファイルだけを持って立ち上がる。残った資料を一瞥し、にっこりと笑顔をヒイロへ向けた。嫌な予感に口を開こうとしたヒイロより早く、デュオは一方的に告げる。
「残り、片付けといて。証拠はオレが回収して部屋に運ぶから、片付けたらすぐ来いよ」
「……」
　さっさと踵を返して部屋を出て行く三つ編み男を見送るヒイロは、押し付けられた雑務に舌打ちした。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　To Be Continued...

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　やっと更新できた……。仕事を少し減らしたいが、この時期は忙しいのよねぇ。ぇろも書きたいし、読みたいし、書きたい←
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