W2×1　【MiyabihimeA】

　月から地球へ向かう民間シャトルに乗ったはず……クリスマスである１２／２５は終戦記念日で、様々な式典が執り行われる。と、当然ながらテロが多発するのだ。それらを阻止する任務を終えて、事前に多発テロを食い止めた。
　今年の任務はこれで終わりだったこともあり、浮かれながら恋人の元へ戻ろうとしただけだ。
　……オレ、何も悪いことしてないよな？
　思わずため息を吐いて頭を抱え込む。寒さに耳や首筋が痛いくらいだった。仕方なく手袋に包まれた両手で耳を守りながら、白い息を吐き出す。きょろきょろ見回す先に、人影はもちろん町の形跡すらなかった。
「……たぶん、カナダ…あたりかな？」
　シャトルが通る軌道を思い浮かべて、この風景が合致しそうな地名を呟いてみる。まったく何の解決にもならないが、現状確認は必要だ。それが希望的観測だとしても……。
「最悪、北極だったりして……」
　苦笑いする余裕があるのが救いだろう。
　無理やりハッキングで割り込んだキャンセル待ちをクリアし、ようやく取れたシャトルの席で熟睡していた。それはもう、数日間の徹夜を取り戻すように寝ていたデュオが目を覚ましたのは、シャトルの異常な揺れが原因だ。気付けば墜落コースで、慌てて身を起こした瞬間には手遅れだった。
　目の前は真っ白な雪原、背後にシャトルの成れの果て。どちらも嬉しくない光景だった。生きてる人間をシャトルの前方に放り込んで、残っていた電気で暖房を作動させてきたから、しばらくは生きていられるだろうが……この雪原を歩いてわたるのは無理だ。
　ロシアとは方角が違うから、おそらくカナダの北側か。
　耳元のピアスに触れる。迷って無理やり引っ張った。凍っていた金属が触れた耳は痛みを感じることなく、手袋の上に小さな金属が転がる。それを奥歯の上で噛んだ。
　これでピアスに仕込まれたＧＰＳが作動する。おそらく２４時間以内にスイーパーの誰かが救助に来るはずだ。ほっと息をついてから振り返れば……シャトルが消えていた。
「……え？」
　いや、よく見ればシャトルの一部が氷の中に覗いている。どうやらシャトルが墜落した場所は氷河の上だったらしい。もしかしたら流氷の上だったのかも知れない。どちらにしても足元に海水か真水が流れているのは間違いなさそうだった。深さから判断すると海の可能性が高い。
　あっという間に沈んだシャトルを呆然と見送り、がっくりと座り込んだ。
「まいったな……生き残れるか？　オレ」
　誰もいない、風雪を凌ぐ場所もない雪原の上でがくりと肩を落とす。だが消えてしまったシャトルを嘆いても戻ってくることはないのだ。しかたなく、デュオはのろのろと動き出した。

　――――数時間後。
「本当に、ここでしょうか」
　思わず疑ってしまうのは、みごとに風景が白一色だからだ。シフェルの疑問は、隣に居るヒイロも感じているらしく無言で雪をにらみつけている。墜落したシャトルの姿はなく、流氷に積もった雪が作り出した真っ白な景色が広がるのみだった。
　無事着陸した小型シャトルのナビが示すのは、この場所が北極海の一部だという残酷な現実。もしかしたら、デュオはシャトルごと沈んだのでは？　悪い予感に彼らが顔を見合わせ、しかし気を取り直したように外へ視線を向けた。
「……あれは……？」
　黒い点の様な何かに気付いたヒイロが、防寒具をしっかり着込んで外へ飛び出していく。距離にして数百メートル先の黒い何かが僅かに動いた。近づけば、風に揺れる布のようだ。
「布？」
　こんな場所に？　疑問に眉を寄せたヒイロの足を、冷たい何かが絡みつくように掴んだ。びくっと肩を揺らし、反射的に反対の足で蹴飛ばしてから、「ぐっ」というくぐもった声が聞こえて我に返る。
「まさか……デュオ？」
　声がした辺りを手で掘り起こすと、無線の声に反応したシフェルやジャックも駆け寄ってきた。みんなで掘り起こした雪の塊の下で、凍えるスイーパーのトップ・エージェントを発見する。雪穴を掘って、冷気と風から身を守っていたらしい。
「……すげえな、生きてた」
　悪気なく感動しているジャックが予備の防寒着を渡せば、同じように驚いているシフェルが「本当に、悪運だけは強い人ですね」と震えるデュオに着せていく。凍った三つ編みを握るヒイロは、凍りついたデュオの手を手袋で包み込んだ。
「……帰るぞ、デュオ」
　震えが酷すぎて声が出せないデュオがどうにか頷き、全員がほっと表情を和らげた。

　――――翌日。
　凍っていたデュオを放り込んだ病院では、悲鳴が上がっていた。
「先生！　患者さんがいません！！」
｢……そうだろうな」
　ランディが低い声で看護師に同意する。低体温症、凍傷と肺の損傷が激しく絶対安静のはずだが、あの男が『クリスマス』という行事に大人しく寝ている筈がない。わかっていたので、監視もつけなかった。
「監視の担当が責任を感じるから……やはり、つけなくて正解だった」
　ぼやいた彼の声は慌てふためく看護師たちには届かない。眼鏡の縁に触れながら見下ろした先、新雪の上に無様な足跡が残っていた。
「彼は私が見つけて連れ戻す。君たちは通常業務に戻りたまえ」
　命じて動き出した医師は、しかし言葉と裏腹にゆったりした足取りで病院を後にした。

「痛っ、ヒイロ……やめ」
「大人しく入院していろと言っただろう！」
　怒りの鉄拳を喰らい、足元で情けない声を上げるデュオが「だって……折角のクリスマスなのに」と呟く。その響きの哀れさと、いつも邪魔が入るクリスマスという行事を彼が楽しみにしていたことを思い出し、ヒイロは妥協することにした。
「しかたない。今日の夕方には病院へ戻れ。それまで付き合ってやる」
　そんな恋人の甘い言葉に、「メリークリスマス」とキスを強請るデュオが手を差し伸べる。いつもと違い少し崩れた三つ編みを握り、ヒイロがそっと唇を寄せた。
　触れた唇の温かさに、ついつい口付けが深くなる。
「プレゼント、沈んじゃって……ごめんな」
　謝るデュオの痛々しい頬に手を触れ、ぬくもりにほっと息をついた。
「いや、お前がいればいい」
　毎年何かに邪魔され続けたクリスマスも、なんとか二人で一緒に過ごせそうだ。それこそが最高のプレゼントだと微笑んだ恋人を、包帯だらけの手で抱き寄せたデュオは頬を笑み崩した。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｍｅｒｒｙ　Christmas！！

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　やはり、デュオはケガしないとｗｗｗｗ　というか、乗っている飛行機が落ちて生き残る夢を見たので、それをそのまま。本当に雪原に落ちたんですよねぇ……で、自分は無傷なのに飛行機が海に沈んでしまい「え、食料は？」と本気で心配したところで眼が覚めたというオチ←　　　　折角なのでデュオに体験していただきましたｗｗｗ　デヒでなくても良かった話だけど、思いついたときに吐き出しておこうかと書いちゃった。