W2×1　【MiyabihimeA】

　確かに…問われてもプリベンター所属は公表できない。ＦＢＩ所属という肩書きを名乗っているが、ＣＩＡより立場が上のプリベンターという組織は表向き『存在しない』ことになっているのだ。
「……どういう、意味だ」
　一般人が知るはずがない情報の欠片を匂わせたデュオへ、質問を返す。もし…ヒイロの所属する組織の情報を得るためにデュオが近づいたのだとしたら…最悪、殺すしかなかった。そこに例外はなく、誰であろうと探るものは始末しなければならない。
　きゅっと拳を握ったヒイロの仕草に肩を竦め、編み終えた三つ編みを背に放る。
「朝食食べながら話そうぜ。それとも…心配？」
　毒殺なんてしないぞ。
　そんなニュアンスを漂わせるデュオを睨みつけ、ヒイロはひとつ息を吐いた。一度落ち着く必要がある。彼のペースに乗せられている自覚はあるから、さらに深呼吸を重ねた。
「いいだろう…」
　誘いに乗ってやる。
　強気な口調を崩さずに、ベッドを降りて洗面所へ向かう。その背中へ投げられたのは「服は用意しといたの着てくれよ」という緊張感のない言葉だった。

　用意されたシャツを羽織り、ダイニングへ向かうと…デュオは先に席についていた。黒いシャツで笑って手を振る姿を睨みつけて、向かいに腰を下ろす。用意されてたサラダをつつきながら、デュオは静かに切り出した。
「…ヒイロに近づいた理由、だっけ？」
　コーヒーを口元に運んだヒイロの手が止まる。じっと見つめ返す蒼い瞳に、デュオの口元が意味ありげに弧を描いた。
「デュオさん…」
　呆れたような、咎める響きを滲ませたシフェルが、デュオの言葉の先を止めようとする。しかし、彼はちらりとも視線を向けず、冷たい声色で切り捨てた。
「下がってろ、シフェル」
「しかし」
「意見は求めてない」
　これ見よがしにため息をついたシフェルが部屋を出るのを待って、ヒイロは緊張に乾いた喉をコーヒーで潤した。部下を追い払ったときの態度から、かなり上下関係がはっきりしているのだと知れる。
「…惚れたからってのは嘘じゃないけど、最初は計画的だったな」
　あの駅前で出会った瞬間は演出した結果だった。平然と口にしたデュオは、飄々とした態度でレタスを口に含む。ドレッシングなしで噛み締めた野菜を飲み込むと、行儀悪い仕草でトマトを突き刺した。
「正直、あの組織の人間なら誰でもよかったが、ヒイロが本当に好みだったんだ」
　抜け目ないリサーチの結果、好みの外見を持つヒイロを選んだといいながら、デュオはどこか苦いものを噛み締めるような顔をしてため息をつく。言葉だけなら悪びれているくせに、どこか憎めない雰囲気を感じた。
「…近づいた理由は？」
「……そこは契約にかかわるから言えないな」
　吐き出した言葉の深さと反対に、口元には自信ありげな笑みが浮かんだ。デュオは肩を滑った三つ編みを指先でいじると、小首を傾げてヒイロに質問を投げる。
「で、どうする？　敵の真っ只中で騙されたと、泣いて帰るか？」
　くつくつ喉の奥を震わせて笑うデュオに、いつもの優しさは欠片もない。鋭い視線を正面から受け止め、ヒイロはひとつ息を吐いた。すぐにその口元が笑みに歪む。
「誰に口を聞いている？」
「…裏でも有名なヒイロ・ユイに、だ」
　裏でも有名という枕詞に、デュオの立場の片鱗が垣間見える。彼は裏社会に属しているのだ。それもかなり大きな組織だろう。そして、プリベンターのもつ何かを目当てにヒイロに近づいた。
　そこまでわかれば十分だ。ヒイロが愛用の銃を取り出して安全装置を外した。額に銃口を突きつけられた状態で、デュオは平然と残るサラダを口に運ぶ。
「…あのさ、銃弾の確認した？」
「何を…」
　言われて眉を顰めたヒイロが戸惑いに銃口を下げる。その瞬間伸ばされたデュオの手が、銃の上部をきつく掴んだ。
「騙されちゃ駄目だろ、ヒイロ」
　にっこり笑う男に、舌打ちしたヒイロがトリガーを引くが…動作部分を固定された銃は動かない。わかっていても苛立ちからトリガーを引いたヒイロへ、デュオは「ごめんな」と囁いて銃を軽くひねった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　リサーチでゲットされたヒイロさん。危険な状況ですが、シフェルといい、デュオといい、肝心なところを濁す奴らです。そしてさほど重要な理由ではないような気がするｗｗｗ