W2×1　【MiyabihimeA】

　南蛮の書で、≪ちよこれいと≫なる食べ物を知ったのは偶然だった。豆の粉末やら砂糖をふんだんに使う南蛮の菓子に興味を引かれ、かなり高価な材料を手に入れた政宗だったが・・・・・。
「Shit！　何か違う・・」
　書物に記された通りに作った≪ちよこれいと≫は甘くて、確かにうまい。固める前の味見でも問題ないのだが、あの男の好みとは合わないのだ。もっと苦味や酸味など、複雑な味の菓子に仕上がらないものか。
　料理上手と称される独眼竜が己の右目に贈るのだ。普通の≪ちよこれいと≫では物足りない。≪ちよこれいと≫を作る時点で、すでに普通ではないと気づかぬまま、彼は真剣に悩み始めた。
　最近食べた菓子の中で、いたく小十郎が気に入った物があった筈―――思い出したのは、柚子の皮の砂糖菓子だった。砂糖水で透き通るまで煮詰めた柚子の皮を乾燥させ、砂糖をまぶした贅沢なものだ。
　柚子の酸味と皮の苦味、砂糖の甘さが絶妙だったな・・・。
　まだ残っていた筈！
　奥仕えの近従にも多少はわけてやったが、日持ちすることもあり残りを保管していた。
　ちらりと≪ちよこれいと≫に目をやる。湯煎で温めたそれが冷めるには時間があるだろう。この厨は自分用に作らせた場所で、勝手に入ってくる者も居ない。迷ったのは一瞬で、すぐに自室へ向かって足早に厨を後にした。

　たいした時間は掛けていない。
　だが、戻ってきた厨で≪ちよこれいと≫は硬くなっていた。
「Oh my god！　なんで固まってやがる」
　突いてみても、液体には戻らない。湯煎に使った湯は、風呂より冷えていた。思ったより湯が冷めるのが早かったのだ。慌てて南蛮の書を開いてみても、固まった≪ちよこれいと≫を元に戻す方法など書かれていなかった。
「お手上げか・・」
　諦めて降参するのは悔しいと唸って、≪ちよこれいと≫の入った鍋を湯からあげて隣に置いた。しばらく睨みつけていると、釜の余熱なのか≪ちよこれいと≫が溶けてかけている。
　鍋に張り付いてた≪ちよこれいと≫が柔らかくなって浮いていた。
「・・・もしかして？」
　湯煎に使った湯を再び沸かし、その上に鍋を置く。じわじわと溶けていく≪ちよこれいと≫に顔が綻んだ。だが、思ったほど溶けない。すべてを溶かすのは諦め、溶けた部分を掬って柚子の砂糖菓子にまぶし始めた。
　出来上がった菓子は長細くて、少し不恰好だった。木の枝に似ているかもしれない。
「しかたねぇ。Revengeはまた今度だな」
　固まった菓子を１本摘まんで齧る。パリっとした歯ごたえの後、甘いチョコが口に広がる。その後を追うように甘酸っぱい柚子の苦味が舌を楽しませた。
「上出来だ」
　南蛮から齎されたガラスの皿に盛り付け、残った≪ちよこれいと≫の塊は包丁の背で細かく砕いて袋に詰める。厨を出れば、甘い香りにつられたのか・・数名の若い連中と会った。
「いい匂いっすね、筆頭」
「ああ・・南蛮の菓子だ。みなで分けて食べろ」
　袋を手渡せば、中を覗いた連中の顔が綻ぶ。
「ありがとうございます、筆頭！」
　礼を背で受けながら、自室まで慎重に菓子を運んだ。
　城下へ使いに出した小十郎が戻るまで、あと半刻―――。
　最愛の情人が喜んでくれる顔を思い浮かべながら、政宗は軽く目を伏せた。

　きっちり半刻後、顔をだした小十郎が疲れから転寝する主を苦笑しながら起こしたことで、サプライズはなくなってしまったが・・・南蛮の≪ちよこれいと≫を食べながら、それ以上に甘い時間を２人で過ごしたとか。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 The END or....???

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　よそ見している間にチョコを固めてしまったのは、昔の綾自身でした。
　ちょっとした小話ですね。季節行事にあわせて書くのは好きです♪