W2×1　【MiyabihimeA】

　アイツがいなくなって・・・どのくらい経ったのか。
　今でも目を閉じるだけで思い出せる。
　何かひとつ行動を起こすと、アイツだったらこうしたのに・・と思う。
　季節が移り変わるだけで、簡単に想いは過去へ遡った。
　いつだって・・・傍にいて俺を護り、俺を見守って、育て、慈しみ、愛してくれた。
　アイツがいたから、今の俺がある。

　視線を向けた先で障子は開けられていて、遠く空は青く染まる。
　美しい景色、アイツと俺が守り抜いた奥州の春だ。梅が散って、桜も舞って・・・・これから芽吹いた命が育まれる夏が来る。
　それを見ることはないと、誰よりも自分が一番よくわかっていた。
「こ・・じゅ・・・」
　掠れた声が名を形作って、「はい、政宗様」と答えるアイツの微笑が浮かんだ。
　アイツが死ぬ時の約束―――俺が死ぬ時はちゃんと迎えに来い。約束を果たしに来た小十郎が、音もなく枕元に膝をついた。死んだ時より若い、そう・・あれは俺が奥州筆頭を継いだ頃の姿だ。
　まだ白髪もなくて、眉間に刻んでいた皺すら本数が少ない。
「政宗様、お迎えに上がりました」
　お約束でしたね・・・そう笑う小十郎が、俺の見ている景色に目を凝らして笑みを深めた。
「最後まで、この奥州を育てられた。見事でしたぞ」
　すべて見ていたのだと言外に滲ませる。それが嬉しくて目が潤んだ。
　隻眼の眦に浮かんだ涙が、一筋零れ落ちる。
「父上？！」
　声が聞こえる。
　息子ではなく、娘でもなく・・・妻でもない。
　誰より愛し愛された男の「おかえりなさい」という優しい声色。
「小十郎・・」
「はい」
「俺はお前の主に相応しかったか？」
「今も・・小十郎にはもったいない主君ですよ」
「ただいま・・・」
「おかえりなさいませ、政宗様」

　ひとつ大きく息を吸って吐いた―――ああ、空はこんなに青く・・・・どこまでも。
　迎えに来た小十郎の手を取り、重くなった器を脱ぎ捨てた。
　奥州王を喪って嘆く下界をよそに、気持ちはどこまでも自由で軽い。
「夢が叶いましたな・・・」
　小十郎の言葉に、「I want to be a bird（鳥になりたい）・・だろ？」と小首を傾げた。目の前で微笑む男の首に手を回し、抱き着いて接吻ける。
　ああ・・・・・俺達が愛した奥州の空はどこまでも・・・・・・・・気高く、青い。

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　小十郎は絶対に迎えにきてるだろうな。過保護だしｗ
　それにしても久し振り・・・こういう詩的な書き方。すっかり忘れてて、感情のままに吐き出したので形式もへったくれもないですが、政宗公のご冥福をお祈りいたします。