W2×1　【MiyabihimeA】

　多大な損失が出たと怒り狂う主の号令の下、海賊が根城とする離島への出征が決まった。海での戦いは得意ではない。泳げないわけではないが、足場が揺れる船上は戦いづらいし・・離島へ攻め込むはいいが、手前で船を攻撃されたら被害が大きいだろうと溜め息が漏れた。
　注進しても聞き届けられる可能性はない。
　俺が海賊なら島から船を攻撃する。火矢を射かけてもいいし、石を飛ばしてもいい。とにかく船に被害を与えれば、上陸できる人数は海の藻屑となって激減するのだ。
　少なくとも沈みたくはないな。
　船が島に近づくにつれて、不気味なほどの静けさに「やはり・・」と溜め息を吐いた。己の当たって欲しくない予想が当たるらしい。ひゅん・・と軽い音で最初の矢が射られた。どの船にも当たらなかった１本の矢は、風向きを確認したのだろう。
　次は火矢がくる・・それも大量に。
　のんびりしている連中をよそに、舳先で刀を抜いた。左に佩いた刀を右手で抜いて、左手に持ち帰る。面倒だが、新参者である小十郎が目立たぬ為の処世術のひとつでもあった。
「・・・くるっ！」
　小さく叫んだと同時、火矢が音を立てて降り注ぐ。大きく振った刀で周囲の矢は払ったが、船の後方は燃え始めていた。たいして大きくない船だ、陸まで保たないと判断して舌打ちする。
　島の裏側に停泊していたのだろう海賊船が姿を現した。絶妙なタイミングに、海賊にはよほど優秀な指揮官がいるのだと小十郎は歯噛みしたい気持ちで船を睨む。
　近づく船の速度は緩まることなく、驚きに目を瞠った。
　まさか・・・接舷する気なのか？
　ダァーン！！　大きな音と振動が船を揺さぶった。海賊船らしい荒っぽさに好ましさすら感じる。
　俺もたいがいだな・・小十郎は苦笑いして、海賊船へ飛び移った。すでに戦端は開かれており、そこかしこで刀を打ち付ける金属音がした。
「Yahaー！　Are you ready, guy？」
「Yeah!!」
　慣れた様子で海賊達が鬨の声を上げる。両手を振り上げて歓喜したままなだれ込んでくる海賊を相手にするには、こちら側の士気が低すぎた。そして、小十郎は信じられないものを見つける。
　―――海賊船の帆柱を背に笑う、眼帯の青年。
　笛をまた聞かせてくれと強請った彼が、海賊共を束ねる存在だというのか？！　地べたに寝転び、子供のように無邪気に笑った彼が・・・。
「Oh・・こないだの・・・どうする？　戦うか？」
　逃げてもいいんだぜ？　笑いながら１本だけ刀を抜く。残りは予備と判断し、小十郎は刀を正眼に構えた。相手の手の内がわからないうちは常道の構えで応じるのが、小十郎のいつものやり方だ。それに対し、片目の青年は眼帯の右目の高さで刀を水平に構えた。右利きなのだろう、むき出しの右腕は筋肉がしっかりついている。
「Come on！」
「参る！」
　最初の剣戟（けんげき）の音でわかった。鍔迫り合いなく、互いに距離を置く形で後退る。周囲の喧騒が消えて、シンと空気が音を消した。次の攻撃がすべてだ。小十郎の剣先が下がり、床をガリリ・・と掻いた。
　必殺の構えで、下から刃を振り上げようとして・・・目の端に映った銀色の刃に息を飲む。腰を落として刀をしまい、青年は一気に６本を両手で引き抜いた。その背後に別の男が近づいてくる。まだ彼は気づいていないのだろう、すべての意識をこちらに集中させていた。
　海賊を討伐するという目的を考えれば、小十郎が囮になるべきだろう。だが・・・・許せなかった。右目を失った彼の死角から近づく、卑怯な男への苛立ちが膨らみ、気づけばその男へ向けて刀を振り下ろしていた。
　ザシュ・・・右側の死角で聞こえた音と同時に、目の前にいた左利きの男は身を沈めている。何が起きたのか、政宗をもってしても半分ほどしか見切れなかった。
　わかっているのは、この男が己の命より俺を優先したことだ。６本抜いた本気の俺の刃をかいくぐり、背後の敵・・彼にとっては味方である男を突きで殺した。
「おまえ・・・」
「・・・・気に入らねぇ」
　呟くと同時に小十郎は刃を抜いた。身を起こした彼の左頬に、無残な傷が残っている。真っ赤な血が噴出した左頬を無造作に袖で拭った。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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