W2×1　【MiyabihimeA】

”俺の机は大変なことになるぜ”
　出勤は無理だと諭した小十郎へ、大きな溜め息を吐いて眉を顰めた政宗はそう呟いた。確かに普段から人の数倍の量をこなす優秀な人間が欠勤すれば、それだけ他の人間に皺寄せが行くのは当然だ。それは小十郎も理解しているが、自力で立てない政宗を連れ出す気はない。それどころか、本音では・・・ずっと部屋に閉じ込めたかった。
　誰も会わせず、政宗が見るのも聞くのも話すのも・・すべて俺だけならばと―――。
「片倉部長。こちらの書類ですが、伊達君が休みなので任せてもよろしいですか？」
　差し出されたのは、５日後に予定されているプレゼンテーションの承認書だ。本来は担当者であり、責任者でもある政宗の承認印が必要だった。だが本人が休みである以上、直属の上司である小十郎へ書類が回される。
　銀縁の眼鏡の縁に手をかけ、じっくりと書類に目を通した。
　真面目さを象徴する政宗の丁寧な手書き文字が数行付け加えられた資料の表紙をめくり、中身を速読で掴んでいく。大量の資料をざっと確認して、一番上に添えられた承認書へ片倉の印を押した。
「これを専務へ回してくれ。それと・・伊達の机の書類を手分けして片付けておくように」
　ざわめく周囲を見回し、近づいた女性社員に承認書を渡して溜め息を吐く。
「さきほど確認したが、伊達でなくても構わない書類も回されているぞ。体調が悪くて休んだ伊達を少しは手伝ってやれ」
　部長としてより個人的な意見で伝えれば、彼らは居心地の悪そうな顔をして書類を分類し始めた。自分達でも政宗に押し付けている自覚はあるらしい。
　自らも立ち上がった小十郎は大きな書類の山から一束抜き去ると、きょとんとしている部下達を尻目に己の机に広げた。
「部長も・・ですか？」
「当然だろう。だから君達も頑張ってくれ」
　その言葉に奮起したのか、女性社員が数人書類を受け取り、続いて男性陣も手を伸ばした。一斉に分業して作業を始めたおかげで、珍しくおしゃべりの声もなく黙々と書類が片付いていく。
　終業のチャイムが鳴ると、部下が一斉に書類をチェックして立ち上がった。基本的に手分けしたことでほとんどの書類が仕上がっている。
「お疲れ様でした」
「お先に失礼します」
　決裁待ちとなった書類を小十郎の机の上に積む部下を前に、眉間のフレームを指先で触れながら顔を上げる。
「ああ・・・ご苦労だったな。ゆっくり休んでくれ」
　口々に挨拶する部下を丁寧に労ってやり、小十郎は眼鏡を外して机に置いた。視力が足りなくて眼鏡をしているのではなく、印象や雰囲気を操るためのアイテムだ。誰もいない状態で掛けている意味はなかった。
　疲れた目を指先で解すように揉んで、軽く肩を落として全身の力を抜く。椅子に寄りかかって天井を仰げば、少しだけ気分が晴れた気がした。
「・・・・・やはり優秀だな」
　政宗の処理能力を改めて見直した。彼の優秀さは誰もが認めるところではあるが、数人掛りで分担した量を１人で定時までに処理していた政宗を思い浮かべ、目の前の書類を確認し始める。しかし数箇所の訂正を見つけた時点で、溜め息をついてペンを置いた。
「今日は帰るか」
　いつもなら２１時前後まで残業をするのが日常だが、家に寝かせたままの政宗の様子も気になる。彼が何らかのトラウマを持ち、他人との接触に異常なほど気を使っていたのは知っていた。しかし誘われて抱いた瞬間から、政宗に対する気遣いが小十郎の中から消えている。壊れ物に触れるような感覚で接していた部下の、どこか不安定な魅力にすっかり夢中だった。
　接触嫌悪のトラウマも含めて、この手で触れることを許した彼を受け止めてやりたいと思う。
　崩れ掛けた書類を再び積み上げ直し、小十郎は外した眼鏡を掛けて席から立ち上がった。普段より手早く片付けると、誰もいないフロアを点検する手順に不備はない。だが、心はすでに自宅へ向かっていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　今日はご主人様（ｗｗ　ついったー参照）方のご意見で、最悪の更新ですｗｗｗ　政宗様は回想シーンしか出てこない。でも小十郎の仕事姿と眼鏡アイテムを生かせる場面を書けたことで、個人的に満足しています。次は政宗様のターンですなｗｗｗｗ　
　後、今回からタイトルに「最悪」の文字が入りませんｗｗ　１０回目だし・・コレを記念に・・・というと格好いいですが、ネタ切れに近いｗｗｗ　最終話は「最高」と入れて終了したいな♪