W2×1　【MiyabihimeA】

「ほら、おいで」
　軽々と抱き寄せて、額に接吻けて・・頬に唇にと顔中へキスを降らせてくる。擽ったさに首を竦めたヒイロの腕の中で、ニャァーと小さな声がした。
「・・・・・・」
　無言で仔猫を抱き締めるヒイロ。さきほどまでダンボールの中で寒さと孤独に震えていた仔猫は、ヒイロの暖かな腕の中で小首を傾げている。
「ヒイロは、飼いたいんだろ？」
　頷くことに躊躇えば、デュオはあっさりと抱き締めていた腕を解いた。少し肌寒く感じてしまうのは、心細い所為かも知れない。
　悔しいような複雑な感情に唇を噛めば、デュオの手が仔猫を抱き上げた。取り上げられてしまったようで、不安になる。見上げた先でデュオは仔猫に触れるだけのキスをして、優しく首を擽っていた。
「ほら、ヒイロも一緒に帰ろう」
　仔猫を腕に抱いたままのデュオに柔らかい笑みで促され、ヒイロは安心したように息をついた。そのまま隣に並んで歩き始めれば、仔猫が腕の中に戻される。抱き締めた温もりは、もぞもぞと身じろぎした後で丸くなって眠ってしまった。

　マンションの一室で、ヒイロは仔猫を抱いたままソファに腰掛けた。温かいコーヒーを両手に、デュオが当然のように、隣を陣取る。
「買い物に出たきり帰ってこないから、心配したんだぜ？」
　ガラステーブルにお揃いのコーヒーカップを置き、デュオはヒイロの頭を胸の前で抱き締めた。大人しく寄りかかっているヒイロは、じっとデュオの言葉に耳を傾けている。
　耳元で聞こえる鼓動に安心して、眠くなってきてしまう。
「仔猫拾ったって、別に今のオレ達なら飼えるじゃん。何を心配してたんだ？　連れて帰っても追い出したりしないさ」
　そこでデュオは言葉を切り、コーヒーを口に運ぶ。
　デュオが仔猫を追い出すのか、そんなこと心配しなかった。ただ・・・人間として不完全な自分が、仔猫を拾うことに―――不安を覚えてしまった。自分さえ管理できない奴に拾われて、この仔猫は幸せになれるのだろうか・・・と。
「どうせ、余計なこと考えてたんだろ？　自分じゃ仔猫を可愛がってやれない、とか」
　どうして？
　顔を上げて眼差しで問いかけるヒイロに、苦笑したデュオがキスを落とす。咄嗟に閉じた瞼の上に触れたキスは、微かにコーヒーの味がした。
「やっぱりな・・・オレはヒイロを甘やかしてやりたいし、おまえに甘やかされてると思ってる」
　じっと見つめれば、今度は額にキスが贈られる。
「オレみたいな野良猫を飼ってるんだ、もう1匹くらい増えたって・・ヒイロはちゃんと面倒を見れるよ。オレが保証してやる」
　優しい言葉に笑顔を見せたヒイロの腕の中で、仔猫はぴょこんと耳を立てて周囲を見回している。先ほど飲んだミルクで元気になったのか、床の上に降りると、盛んに部屋の様子を確認しているようだ。
「・・・お前の家だ」
　仔猫に言い聞かせれば、ひゅんっと尻尾が揺れて答えた。お気に入りの場所を求めて、うろうろしている猫を見送り、ヒイロはデュオの胸に再び頭を預ける。
「野良猫じゃない。お前が俺を飼ってるんだろう？」
　くすくす笑ったヒイロの可愛い言葉に、デュオは考える素振りを見せた。指が悪戯にヒイロの首筋や胸元を弄る。
「ふ～ん。じゃ、飼い主の我が侭に付き合ってくれる？」
　弱いところを狙って刺激されたヒイロをさらに引き寄せ、自分の膝の上に向かい合わせに座らせた。
「・・我が侭次第だな」
　憎まれ口を叩いた唇に接吻けた瞬間。ニャーン、足元で仔猫が遊べと騒ぎ始めた。まるで2人だけで仲良くしているのが気に入らないとでもいうように・・・。
「あらら・・」
　仔猫に手を差し伸べようとしたデュオを遮り、目の前の端正な顔を軽く舐めた。ヒイロの行動にびっくりして目を見開けば、笑って仔猫を抱き寄せるヒイロが小首を傾げる。
「降参、猫には勝てません！」
　両手を上げて笑うデュオに、ヒイロも笑みを零した。
　195年には想像もできなかった笑顔は、幸せの象徴―――。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 End or？

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　いや・・・どっちが飼い主で、どっちがペットだったのやら？？