W2×1　【MiyabihimeA】

仮にも赤城で「白い彗星」と呼ばれたカリスマの弟だ。群馬一レベルの高い赤城山で最速を誇るチームの№２を名乗る以上、たとえ街乗りといえど、粗末な走りは出来なかった。
どこで誰が見ているか。兄と、兄が作ったチームの名を汚すような行為は許されない。

昼間、タイヤを履き替えたので、最初の上りはあまり飛ばさなかった。調子よく走れるのは、タイヤが一皮剥けてからだ。それまでは少しペースを落とすしかない。
基本中の基本を実践しながら、それでも啓介の黄色いＦＤは速かった。

赤城の静寂を破るエキゾースト。
ロータリー独特の響きが、赤城に来ている走り屋たちに「憧れ」の念を抱かせる。同じクルマに乗ることは
簡単だ。金さえあれば、買い換えれば済むことなのだから・・・。
だが、この赤城を根城とするチームに、他のロータリーエンジンは存在しない。
たった２台だけ-----------ロータリーの高橋兄弟と呼ばれる彼らだけだった。
それだけ特別な存在なのだ。難しいテクニックをいとも簡単そうに見せる走り、同じように走りたいと願い練習し、それでも追いつくことは叶わない。

きっちり２回往復し、啓介は頂上の駐車場へとクルマを滑り込ませた。馴染んだ雰囲気は、兄がいてくれない時の啓介にとって、まるで精神安定剤のような役割だった。ここでタイヤの焼ける匂いとエキゾーストに包まれていれば、少なくとも時計を見ながらため息をつかなくて済む。
こんな目的で走りだしたんじゃないのに、今では意味が摩り替わりつつあった。

「あ、啓介さん」
停まったＦＤに駆け寄るチームのヤツらに、啓介はタバコを咥えながら向き直る。
火をつけて、アイドリング状態の愛車に寄りかかった。
わいわいと人が集まりだし、気づけば周囲には１０人近くも集まっている。
　これじゃ、暴走族の集会みたいだな。
苦笑してしまう。コンビニのおばちゃんの言葉も、あながち見当違いでもなかったようだ。
「よ、今日はどのくらい出てる？］
チームの中でも最近目をかけている尾芦に声をかける。いつもは煩いケンタも、今夜はまだ来ていないらしい。
「今日は２０台くらいっスかね」
「啓介さん、また走りを見てくれますか？」
「あ、オレも！」

口々に騒ぎ出した連中に肩をすくめ、啓介はタバコの火を消した。最後に吸い込んだ煙を吐き出して、
「わかったよ、順番だぜ」
笑顔で了承してやる。
大喜びしている連中は、みんなレッドサンズの一軍だ。他のチームならリーダーになっていてもおかしくない実力の持ち主ばかりだった。中にはサンデーレースなどでトロフィーを貰ったヤツも混じっている。
啓介に教えてもらえる。それは一軍の連中にとって、プロドライバーが隣に乗ってくれるのとおなじくらい価値のあることだった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....