W2×1　【MiyabihimeA】

　ざわめく現場で、トロワと五飛は意外なほど顔見知りが多い。
「お久しぶりです、五飛様」
　数名に傅かれて苦笑している五飛は張一族の長であり、また竜一族から妻を迎えた事で華僑の中で有名人だった。彼の真っ直ぐで不器用なまでの性格から、人気も高いらしい。囲まれた集団の隣で、トロワもまた口々に挨拶を投げかけられていた。
「最近見かけないから、くたばったかと思ったぜ。boy」
「あんたがプリベンターとはねぇ・・・」
　五飛の周囲に比べれば、かなりガラの悪い傭兵集団だ。戦場にいた子供の頃のトロワを知る男達は、がっしりと逞しい腕でトロワの肩を叩いて笑う。
　騒々しい２つの塊を呆然と見つめるヒイロの隣へ、指先で三つ編みを弄るデュオが歩み寄った。ほとんど音も気配もないが、僅かに感じ取れるくらいには残している。それがヒイロの後ろから近付くデュオなりの気遣いだ。
「凄いな、ありゃ・・・」
　苦笑する恋人の言葉に、ヒイロも表情を和らげた。
「デュオさん、まだ引継ぎと報告が終わってませんよ」
　シフェルの渋い声に、顔だけ振り返って叫び返すデュオはヒイロの腰に回した手を引き寄せる。
「あ？　オレじゃなくても片付く仕事を回すんじゃねぇよ」
　距離を詰めた分だけ血の臭いが濃くなる。怪我をしたのかと顔に出して見上げれば、１５ｃｍほど身長の高いデュオが首を横に振った。
「これ？　全部返り血だよ」
　けろっと吐き捨てられた言葉の裏には、政府転覆を目論んでいた組織を壊滅させた男の自信が覗く。内側に入り込んで撹乱する、一番危険な役を担ったのはスイーパーだった。
　今回の作戦で、突撃隊長を自認するジャックが利き腕を負傷。他にも十名近い上級エージェント達に重軽傷者を出したスイーパーとしては、ほぼ無傷のデュオやシフェルに仕事を分担させるつもりらしい。しばらく忙しくて家に帰れそうにないと聞いたのは、数十分前の事だった。
「もう行くのか？」
　このタイミングで顔を出したという事は、そういう意味だろう。少しぶっきらぼうな口調で訊ねれば、申し訳なさそうな顔をしたデュオが小さく頷いた。
「ああ、悪いな・・・一週間で全部終わらせるから」
「分かっている」
　ほぼ即答で切り捨てる。
　あまり長く話をしていると、自分らしくもないダダを捏ねそうで怖かった。ヒイロの心情を察したのか、再び「ごめん」と重ねて謝ったデュオが額にキスを落とす。
「早く行け」
　無言で踵を返したデュオは、待っているシフェルを従えて迎えのヘリへ向かう。一礼して後を追うシフェルを、一瞬だけヒイロは羨ましく思った。同じ組織に所属し、同じ任務で肩を並べて戦う―――今のプリベンターでも同じだが、最終的にデュオが契約して所属するのは・・あくまでもスイーパーなのだ。
　分かっていた現実が少しだけ重さを増して胸に痛みを齎す。
「貴様ら、何をしているっ」
　五飛の硬い声に意識をそちらへ向ければ、黒曜石の瞳を好戦的に煌かせた美人が傲慢な態度で傭兵達に対峙していた。その視線の先は、長身のトロワを上から抱き込んでぐりぐりと撫でている大柄な男がいる。きょとんとしているところを見ると、五飛の発言が自分へ向けられていることすら理解していないだろう。
「五飛、どうした？」
　怪訝そうに、押さえ込まれた状態から声を掛けるトロワに口角を持ちあげて笑った五飛が、無造作に一歩踏み出した。
「まてっ」
　何をしようとしているのか、察したのはヒイロとトロワだけだった。声をあげたトロワの制止は届かず、「美人だなぁ・・」と呟いた男の手首を掴んで、軽い所作で仰向けに引っ繰り返す。合気道に近い一瞬の気合による返し技のひとつだった。
「てめぇ・・」
　唸った傭兵仲間をトロワが睨み付ける。
「・・・彼に触れるな」
　威嚇するようではなく、ただ淡々と発せられたトロワの声。だがこういう態度を取る彼の恐ろしさを、男達は戦場で嫌と云うほど見てきた。両手を上げて「わかった」と従う意思を示せば、トロワの纏う冷たい雰囲気が霧散する。
　途端に男達は再びトロワと五飛を囲んで、両者を中心に盛り上がり始めた。
「いやぁ・・・トロワがこんな別嬪を嫁にするとは・・」
「驚いたぜ、アンタ強いな」
　口々に浴びせられる賞賛と揶揄に五飛が切れるのを予想して、ヒイロは溜め息を吐いた。
　なんとなく・・・当てられた気分だ。
　基本的に悪い連中ではないのだろう。それを理解した五飛の諦め半分の表情へ、トロワが労わるようなキスを頬へ送る。沸き起こった拍手と口笛は、まるで２人を祝福しているように見えた。
「・・・デュオ」
　寂しい気持ちを自覚して、ヒイロは唇に歯を立てた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　翼様、お待たせしました。キリリクスタートですｗ　
　ヒイロが五飛とトロワを羨むシーンを作るのに、えらく大仰な設定ができてしまいましたｗ　そうじゃないと、あの2人が人前でいちゃつくのは無理ｗｗｗｗ　特に恥ずかしがり屋な五飛に行動を起こさせるのは難しいです。
　そんな感じで、【2】で事情を知らないデュオが任務から帰ってきます。おそらくヘトヘトでｗｗｗ