W2×1　【MiyabihimeA】

　誰かに相談すれば良かったのかも知れない。だがデュオ自身も、このときは大した問題だと思わなかった。狙われる立場に慣れすぎ、感覚が麻痺していたこともある。
　違和感を感じたのは、ビル崩壊が起きた日だった。それまで毎日鬱陶しく付き纏っていた気配の主は、デュオではなくヒイロへターゲットを変更したのだ。朝出勤するヒイロを追う後姿を見た瞬間、デュオは予定していた行動をすべて覆した。
　スイーパーへの出勤を連絡もなくキャンセルし、ヒイロを追ってプリベンターへ顔を出す。そして飛び込んだテロリストの情報に、罠の可能性を嗅ぎ取った。今まで姿を晦まして尻尾を掴ませなかった連中が突然水面に顔を出した理由は、デュオの危機感を煽るに十分過ぎる。
　なんでもないフリを装って任務に同行し、細工されたビルの仕掛けに気づいた。ほぼ同時に崩れる瓦礫からヒイロを庇い・・・・そのまま姿を消したのだ。自分を狙うだけなら見逃せても、ヒイロを狙われて放置することは出来ない。相手の組織を完膚なきまでに叩き潰して、再びヒイロの元へ何食わぬ顔で帰るつもりだった。
　そう、そのときは僅か１日２日で結果が出ると思っていたのだから。
　一息に説明したデュオが「レイル」と友人の名を呼んだ。軽いキータッチで操作した端末が、あるテロ組織の構成図をディスプレイに映し出す。ほぼ丸裸の状態まで解明された組織図には、小さいながら構成員の顔写真まで添付されていた。
　写真の中に、デュオを襲撃した４人組の襲撃犯の顔もある。潰した組織の残党に狙われたのだ。
「つまり・・・奴らを炙り出す気だったのか」
　五飛の呻くような指摘に、デュオは肩を竦めた。
「最初は、ね」
「だがイレギュラーが起きた」
　デュオの言葉を遮るようにトロワが呟く。すでに状況を理解しているレイルが笑って頷いた。
「連中の襟章、スイーパーと対立してるＬ３の組織のを模造してやがった」
「おかげで最初は混乱して、遠回りさせられたが・・・」
　苦笑したデュオが自嘲の笑みを浮べて、椅子に寄り掛かる。組んでいた足を逆に組み直した。
　Ｌ３の組織を１日半かけて調べ、無関係だと判明した。もちろんビルに居たテロリストの周辺は調べ終えている。彼らと関係ない組織が絡んでいると判断したデュオは、ここ数ヶ月に関わったテロ組織をすべて脳裏に思い浮かべるところから始めた。数百の組織の情報を検討していく作業を終え、ようやく犯人らしき組織が浮上する。
　壊滅させることは、大した労力ではなかった。
　しかし単独で動くデュオに気づいた別組織が、行方不明扱いの”死神”を手に入れようと動く。振り払うには、相手の組織規模が大きすぎた。もちろんスイーパーを使えれば敵にならないが、この時のデュオはあくまで単独行動を自らに課していた。
　事態がヒイロの耳に入ることを恐れたのだ。
　デュオが狙われたと知れば、プリベンターの規約を無視してでもヒイロは動くだろう。自惚れるくらい、愛されている事実を知るデュオにとって、それは避けなればならなかった。直接危害を加えられていない組織を叩くことは、五飛やトロワも含め、公的組織であるプリベンター職員には認められない越権行為だ。
　誰も味方のいない攻防戦の結果、次第に追い詰められたデュオは包囲される前に自らの記憶を消した。顔が分からないよう焼き払った死体の横に、愛用のナイフを転がす。簡単な偽装だが、この場を撤退するだけの短い期間なら誤魔化せる。三つ編みを解いて帽子の中に隠し、記憶を封じた暗示によってマンションがあるＮＹ地区まで戻った。
　自分がお尋ね者だという自覚がなくなると、言動が変わる。外見的特長が似ていても、まったく別人になりきったデュオを疑う者はいなかった。
　自らにデュオが施した暗示は２つ。
　ひとつはＮＹ地区へ戻るまでのもの、そして残りは記憶を取り戻す為に暗示を解く方法を示唆するもの。
　デュオの記憶がＮＹ地区の空港近くの公園から始まっていたのは、最初の暗示の影響だった。誰か知人に会えれば保護される。その後は嫌でもレイルやシフェルに会うだろう。
　敵に情報を与えない為に記憶を封じる暗示を教えたのはランディだが、レイルもシフェルも同じ訓練を受けて暗示を使いこなす。ならばある程度の符号に気づいた時点で、ランディに暗示を解かせる方法を思い出すことに賭けたのだ。
　話し終えたデュオは、ひとつ大きな溜め息を吐いた。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　つまり、記憶は故意にデュオ自身が消したんです。彼が関わって情報を抹殺したから、誰が探しても痕跡が出てこなかったんですね。所謂隠密行動なので、「逃げも隠れもする」デュオにとって足跡を消すのは容易だったでしょう。
　皆が「生きてるのか！　死んだのか？」とヤキモキしていた４日間、デュオは必死で戦い続けていたという結末です。ご納得いただけるでしょうか？　一部、強引に辻褄合わせちゃいましたけど；　←言わなきゃバレないって（苦笑