W2×1　【MiyabihimeA】

「同居人、仕事のパートナー、仲間・・・・それじゃ納得出来ないって？」
「ああ」
　即答で切り返され、目を数回瞬いたレイルが大笑いした。屈託ない笑い声に嘲笑の色はなくて、単純に返答が面白かったのだろうと待てば、デュオに「悪かったな」と謝罪しながらテーブルへ乗り出した身をソファに沈める。
「相変わらず鋭い奴だな、おまえ」
　褒めてるのか、貶されたのか。判断に困る指摘にむっとした表情を作った。それが一番相応しい気がしたデュオへ、レイルは真剣な眼差しを向ける。
「本当なら本人に聞いてもらうのが筋だが・・・一言で括れば”恋人”だ」
「・・・・・恋人・・」
　意外ではなかった。
　だが自分が男を選んだ理由が分からない。確かに顔も体もキレイだと思う。性格も真っ直ぐで、魅力的だと思うが・・・自分が男を見て欲情出来るタイプだと感じない。
　それでも否定しないのは、昨夜のキスが原因だった。
　心地よかったのだ。まるで飢（かつ）えた心が満たされるような・・・説明のつかない感覚が過ぎる。あれが恋人同士だった想いの欠片ならば、もっと味わいたかった。
「そっか・・」
「お？　意外とあっさり納得したじゃねぇか。さては何かあったな？」
　興味津々と顔に書いたレイルがさらに身を乗り出す。
　鋭いのはおまえの方だろう。
　目を細めたデュオが小さく舌打ちした。
「・・キスした」
　それはそれは・・・大して驚いた様子なく頷いたレイルに何か言おうとしたデュオが口を開くより早く、再びチャイムの音が響いた。おそらくカインとシフェルだろうと当たりをつけて立ち上がる。後ろでひとつに結んだだけの髪が揺れた。
　確認せずドアを開けた瞬間、ぞわりと背中を悪寒が走る。反射的にドアを閉めようとするが遅く、右腕をナイフが掠めた。数歩後ろへ飛び退り、見回した玄関で武器になりそうなものを探す。
　バタンと荒々しい音を立てて開いたドアの向こうは、４人の男がいた。黒い服とサングラス・・・明らかに襲撃が目的だろう。音がしないよう銃は持っていないが、それぞれにナイフを所持している。
「ミスったぜ」
　呟いてリビングへ後退する。背を向けないことで、相手の動きを読みながら素早く移動してドアを閉めた。
「・・・ほら、これ使えよ」
　逃げる素振りも見せずに肩を竦めるレイルが、ジャケットの内側から取り出したナイフを放って寄越す。飛んできた剥き出しの刃を指先で挟み、一度宙に投げて柄を掴み直した。考えるより早い所作は、すでに身に馴染んだ無意識のものだ。
「借りる」
　一応断りを入れて、深呼吸した。直後にドアが開いて男達が飛び込む。
　最初に飛び込んだ男の突き出したナイフを躱して、横を抜けた腕を掴んだ。引っ張られて動きを制限された男が倒れ込んだところを、左手のナイフで薙ぐ。首を引き裂いた刃が赤く染まり、部屋に血の臭いが充満した。
　ヒュー、後ろから口笛が聞こえる。
　手を離して足元に落とした死体を見向きもせず、デュオは次の男の心臓へ刃を突きたてた。何も考える余裕はない。体が動くままに逆らわず、淡々と敵を倒すだけだ。
　心臓へ突きたてたナイフは、収縮した筋肉に阻まれ、容易に抜けない。諦めて手を離し、倒れる男の手からナイフを奪った。左横から突き出された刃が頬を掠め、ぴりっとした痛みが走る。
「・・・っ！」
　連動する動きで反対から伸ばされた手に気づき、後ろへ１歩下がった。喉を掠める銀の刃が視界に入る。あと１秒遅かったら、喉を貫かれただろう。
　恐怖はない。
　逆に奇妙な高揚感に支配されていた。酔いが回ったように、頭の芯がぼうっと痺れる。
　錆臭い赤が染める室内の緊張感も、命のやり取りをする殺伐としたシーンも、何もデュオを束縛しなかった。逆に自由になれた気がして、口元が緩むのを抑えられない。
「・・来いよ」
　挑発を口にして、左側の男を血祭りに上げる。切り裂かれた右半面を押さえた男が、吠えるような大声で飛び掛るのをデュオは喉に突き刺したナイフで食い止めた。引き抜けないナイフを離して空になった左手が、右側の男へ向けて振られる。一閃した左手から飛んだワイヤーが、最後の男の喉に絡まった。
「動くなよ、死ぬぜ」
　にやりと口元が笑みを作る。
　楽しそうに覗き込み、僅かに左手の指を引いた。首に赤い輪が浮かび、滲んだ血が肌を流れる。
「誰に頼まれた？」
「・・・・・・・」
　無言の男が前に倒れる。デュオが緩めたワイヤーは僅かに遅く・・・男の喉に食い込んだ。だが緩めた所為で致命傷にならず、死に損ねた男が血を吐いて転がる。
　その顔を見ていたレイルが近付き、ぐいっとシャツの襟を掴んで引き摺り起こした。辛うじて生きている・・・といった体（てい）の男の襟章を千切り、手の中で転がす。
「・・・ふん、偽造品か」
　呟いて意味ありげに笑った。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　なにやら隠していそうなレイルさん。デュオは記憶がなくても死神です（笑
　普段より苦戦していますが、そのあたりは記憶の有無が影響していますね。でも体は勝手に殺気に反応するので、相手を淡々と排除します。結局記憶なくても、下手すりゃ意識なくても敵をやっつけてそうなカンジ。
　ところで・・・シフェルは遅刻だね。仮にも上司の危機だってのに・・・。書類整理に追われているんだろうか（大笑

【拍手コメント御礼】　ちよ様・・・のんびり更新になって申しわけありません。普通の人っぽいデュオから、普段のでぉに戻りそうです。まだ記憶は戻りませんが、殺伐としたシーンで楽しそうな彼を書いていると・・やっぱ、記憶なくても死神なんだな！と（苦笑）　体調にあわせて書いているので、もう少しお時間下さいませ。
　名無し様・・・感想コメントありがとうございます♪　そうですね、デュオらしからぬデュオなので・・手探りで書いています。そのうち雅姫のデュオらしくなると思いますので、気長にお待ち下さい。