W2×1　【MiyabihimeA】

　尾行られる気配に反応したのは、デュオの方が早かった。ちらりとウィンドウに反射する景色を確認する。ほぼ同時にガラスの中で、ヒイロと視線が合った。さりげなさを装ったヒイロが促すまま、人が多い大通りを外れて横道に足を向ける。
「俺が片付ける」
　言い切ったヒイロにぎこちなく頷き、邪魔にならないよう距離を置いた。それが悪かったのか。尾行ていた男３人を相手に銃撃戦を始めたヒイロを見つめるデュオは、背筋を走る悪寒に似た感覚に身を捩る。斜め後ろから放たれた銃弾が髪を掠め、焼かれた空気の熱さえ頬に感じた気がした。
　考えるより早く・・・左手が髪に伸びる。引き抜いたワイヤーを放つのと、男が再び引き金を引くのは同時だった。
「デュオ？！」
　ヒイロの声が耳に届いた頃、ワイヤーを左手に巻き取ったデュオが立ち尽くしている。
　ぐしゃりと崩れ落ちる肉片は、すでに人間の形をしていない。かろうじて指や髪が人間の名残を感じさせるだけの・・・肉片だった。
　吐き気が込み上げるかと思ったが、まったく平気だ。普通じゃないな・・・そう思う理性と感情はまったく逆の方向を向いていた。酷く落ち着いている自分が居る。
　血臭が充満する裏路地で、赤に魅入られたデュオは自らの手で葬った死体を見つめ続けた。
「・・無事か」
　ほっとした様子で息をついたヒイロへ、瞬きを忘れた目を向ける。彼の右手で硝煙を上げる銃は、３人の襲撃者の死体の額を一発で撃ち抜いていた。プリベンターのエージェントであり、元ガンダム・パイロットの経歴は聞いているから、別に銃を持ったヒイロへの違和感はない。
　ただ・・・・呆然と自分の手を目の前に掲げた。
　白く血に濡れなかった左手―――何が起きたのか、何をしたのか。分かっていて信じたくなかった。
「・・・・おい、大丈夫か？」
　伸ばされたヒイロの手を反射的に振り払う。驚いたような顔をしたヒイロへ笑おうとして、顔が引きつったのが自分でも分かった。
「悪い・・」
　呟いた直後、自分の顔を右手で覆った。
　指の間から見えるのは、足元に溜まった血の赤と肉片だ。
「気にするな」
　そっけない口調だが、ヒイロの気遣いがじわりと染み入る。銃をホルダーに収めた彼の手が再び伸ばされ、今度はデュオの肩に置かれた。宥めるように数回叩いた手がデュオの左手に絡む。指を絡めて握り、ぎゅっと力を込めたヒイロの意図に気づいた。
　大きく深呼吸して、肩から力を抜く。
「いつも・・・・こんな、なのか？」
「いや」
　否定だけしたヒイロが蒼い瞳を瞬かせる。少し迷いながら、ゆっくり言葉を選んで告げた。
「普段のお前は・・もっと、簡単に敵を退ける」
　それは、もっと容易く他人の命を奪うのと同意味―――しかし隠した意味に気づかないデュオは目を伏せた。
「そっか」
　口から零れた声が、ひどく震えていた。


「なるほど・・体は反応しちまうか」
　ぎしっと椅子が悲鳴を上げる。思いっきり寄りかかった椅子の上で、レイルは赤毛を掻き乱した。
　ヒイロに相談された内容は、かつてのデュオにとっての日常だ。考えるより早く、保身の為に相手の命を狩り取る死神―――それが記憶を失った所為で揺らいでいる。戦場での揺らぎは生命の危険だった。
　殺すか、殺されるか。
　躊躇うことは死に繋がる。以前のデュオなら身に沁みて理解していたことを、今のデュオは納得できるだろうか。
「・・・少し話してみるか」
「頼む」
　軽く目を伏せたヒイロを画面越しに見つめながら、レイルは咥えていた煙草を灰皿に押し付けた。苦笑して首を横に振る。
「そのくらいしか、してやれないからな」
　自嘲めいた言葉に、ヒイロは泣き出しそうに顔を顰めた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　風邪の怠さから復活しつつある綾雅です。最近時間が取れなくて・・・細々書くので少し難しいです。
　さて、人殺しを呼吸同様に無意識にこなすデュオ。でもって自分が信じられなくて呆然として、ヒイロに心配させて、周囲を巻き込む迷惑大魔王になりました（笑　そのうち、シフェルとか五飛達も巻き込まれてしまうんでしょうね。そして記憶を失った原因も徐々に明らかになります。結局デュオはヒイロを好きになるしかないので、デヒなのは揺るぎようのない事実です（大笑

【拍手コメント御礼】　匿名希望様・・・コメントありがとうございます♪　BASA●Aでコメントさせていただき、逆にサイトへ遊びに来ていただき感謝です。近いうちにBA●ARAもUPしようと目論んでいますので、少々お時間をくださいませ。
　もるもっち様・・・デュオは現在とっちらかってるので、しばらくヒイロの唇に見惚れている暇はなさそうです；　半信半疑で状況を受け入れていますが・・・当然このまま記憶取り戻してハッピーエンド！はありえませんね。何しろ綾雅のSSですから（爆笑）　守られる筈が、勝手に条件反射で動いてしまいました。しばらく自己嫌悪でしょう。