W2×1　【MiyabihimeA】

　　　***報復？！　№2***


「きゃぁっ！」
　戦場に似つかわしくない可愛い悲鳴が上がり、”嫌な予感ほど良く当たる”とシフェルが眉を顰めた。
「そこまでだ」
　後ろ手に拘束された美女が金髪を振り乱す。しかし捕らえた本人は抵抗など気にせず、口の端を持ち上げて笑った。
　ヒイロ・ユイ―――地球の英雄、黒髪の戦神の名を持つＬ１コロニー出身の超一流エージェント。彼を飾る言葉は多々あれど、誰もが認めた比類なき実力を示されて、シフェル達は動きを止めた。
　悔しさに唇を噛むクリスティンだとて、スイーパーの女性エージェントの中では上位に入る。しかしデュオに並ぶ実力を誇るヒイロに掛かっては、まるで歯が立たなかった。
「降伏しろ」
「・・・・・」
　迷いが生じる。
　指揮官はシフェルだ。彼の判断で彼女を見捨てるか、降伏するか。道を選ぶことになる。自分の恋人だからと特別扱いは出来なかった。いや、恋人だからこそ・・・・。
　苦渋の決断を下して顔を上げた瞬間、クリスが意外な行動に出た。
「ヒイロさん・・手、痛い・・」
　少しだけ緩めて欲しいと告げる彼女に、ヒイロが首を傾げて考える素振りを見せた。その僅かな隙にヒイロを突き飛ばす。バランスを崩したヒイロへ向けた銃口から、素早く２発の銃弾が放たれた。撃ったのはシフェルとジャックで、他のメンバーは状況を把握するのに精一杯の様子だ。
「・・くっ・・」
　弾かれた銃を取り落とし、蹲ったヒイロの右上腕部に血が滲む。
　このままヒイロを人質に取れば勝てる！　そう考えたクリスが手を伸ばす。その爪を掠めてライフル弾が床に食い込んだ。掠めた熱に痛みを感じたクリスが手を引き戻す。
「・・動くなよ」
　ずっと木の上に身を潜ませていたデュオが、ようやく姿を現した。細めた青紫の瞳が危険な色を浮べている。恋人であるヒイロに近付きながら、ライフルで残るメンバーを威嚇し続けた。
　手銃と違い、ライフルは１発ごとに撃鉄を起こす必要があり連射に不向きだ。しかしデュオの実力があれば、半数は倒されてしまうだろう。また狙撃用の銃弾を使っていれば、この至近距離から撃たれた者は命の保証がない。誰もが逡巡した。
「ヒイロ、無事か？」
　声をかければ、「平気だ」と悔しそうな声が返る。
　そこでほっとしたデュオが表情を和らげた瞬間、シフェルがインカム越しに合図を送った。
「今です！」
　ばさ・・・・大きな何かに視界を塞がれ、倒れ込んだヒイロを庇うように身を伏せたデュオが舌打ちする。確認するまでもなく、大きな網だった。ベルトのナイフを抜くが歯が立たない。どうやら鋼の糸で編まれたらしい。
　考えるまでもなく、屋根の上から落とされたのだ。まんまと罠に嵌り、ヒイロに近付いた自分のミスだった。
「・・はぁ・・・・・ったく、大げさなもん出してきやがって」
　諦めてライフルとナイフを放り出したデュオが、網の中で苦笑いしながら胡坐（あぐら）をかいた。

　*続く*