W2×1　【MiyabihimeA】

「キレイだぜ、ヒイロ♪」
　嬉しそうな主人が頬にキスを落とし、薄化粧を施した唇に指を滑らせた。紅いルージュを指先で拭い取る仕草に目を瞬けば、鏡台の引き出しから濃桃色のルージュを手に取る。ヒイロの唇を丁寧になぞって色を塗り替えたデュオが満足そうに頷いた。
「こっち色の方が似合うな」
　微笑まれれば、何となく恥ずかしくて俯く。すでに体を許した相手だというのに、ちょっとした仕草や言葉に照れてしまうのだ。初々しい態度に気を良くした主人が身を屈めて、淑女に対する礼儀を尽くして手を差し伸べた。
「美しく気高い貴方をエスコートさせていただけますか？」
　頬が赤くなったヒイロは隠すように俯き、次の瞬間慌てて顔を上げた。見つめる先のドアに寄りかかった青年に気づいたのだ。優雅に一礼したヒイロと対照的に、デュオは溜め息を吐いて振り返った。
「なんだよ、勝手に人の部屋に入るなっての！」
　気安い口調で文句をぶつけた。光を弾く金髪を揺らして喉の奥で笑った青年が「失礼」と呟く。その眼差しはとても優しく、出来の悪い弟を見守る兄のようだった。
「・・・気に入った？」
　先日と声色まで同じ問いかけをして、カトルは望んだ答えを待つ。あの日のデュオは”さぁて、まだわからねぇな”と惚けて見せた。しかし今日は違う答えが聞けるだろう。今まで望み続け、叶わなかった想いが胸を過ぎる。
「気に入ったっていうより・・・」
　一度言葉を切ってデュオは真剣な光を宿した青紫の瞳を、ひたとカトルの視線に合わせた。正面から眼差しをあわせるデュオの言葉は、きっと本音だ。聞き逃さないよう、寄りかかっていたドアから身を起こして姿勢を正した。
「失くした半身を取り戻した気分だな」
「・・それはっ・・本当に良かった」
　心底そう思う。嬉しさが込み上げて、泣き笑いのような顔になったかも知れない。恥ずかしいと感じるより、きれいに笑えない自分がどれだけ彼を心配していたのか気づかされた。
　人間は誰しも失った半身を求めて彷徨う生き物だ―――かつてその話をしたのはカトルだ。覚えていて、真っ直ぐ返してくれたデュオの心遣いに瞳は自然と潤んだ。だが零れる前に瞬きの中に消す。
「夕食へのお招き、ありがとうございます」
「こちらこそ・・お気に召すおもてなしが出来ればいいのですが」
　名家の当主同士が交わした儀礼じみたやり取りの直後、彼らはくすくす笑い出した。そんな主人達の様子を見守るヒイロは、再び手を取られてデュオを見上げる。
「行こうか」
　ヒイロに拒絶する気はなかった。


　張家当主五飛、バートン家総領トロワ、ウィナー家当主カトル―――有名な彼らを持て成したマックスウェル家当主デュオ。豪華なメンバーと美味な食事、執事による丁重な応対の場で、ヒイロは居心地の悪さに小さく嘆息した。
　こんな場にメイドが同席するのはおかしい。どうしてもその想いが拭えなかった。主人の気紛れで寵愛されただけのメイドだ。どうせ長く続きはしない。そう考えるから余計に気鬱になった。
「ヒイロ？　疲れたか？」
　食後のデザートを突きながらの歓談を遮ってしまい、俯いて首を横に振る。すると・・・カトルが眉を顰めて嘴を挟んだ。
「デュオ、まさかとは思うけど・・・告白より先に手を出したりしてないよね」
　乳兄弟であるヒイロを心配する友人の鋭い指摘に、デュオは焦った顔で首を横に振る。
「だ、大丈夫！　ちゃんと”好きだ”って言ったし・・」
「本当に？」
　疑り深いカトルへ、ヒイロが小首を傾げる。自分が話題の中心なのは分かるが、どうして彼がそこまで気にかけてくれるのか。カトルの乳母が自分の実母という関係だけなのに・・・。
「命令で従わせたりしてない？」
　デュオの視線が泳いだ。一瞬だったが見逃さないカトルは大げさに溜め息をついて、目元を手で覆う。大げさな仕草で嘆いて見せた。
「ああ・・可哀想なヒイロ。甘い言葉と命令で・・こんな男に・・・・手篭めにされるなんて」
「貴様、騙したのか？」
「無理やり手篭めは最低の行為だぞ」
　カトルの言葉尻を捕らえて、五飛とトロワがデュオに詰め寄る。三つ編みを揺らして仰け反った主人を庇うように、ヒイロは失礼承知で間に身を滑り込ませた。
「やめて・・ください。ご主人様はそのような・・」
「ヒイロさん、こちらへ」
　執事のシフェルが途中で遮ってヒイロの手を引く。庇う筈の主人から引き離されてしまい、邪魔をした執事を睨みつける。が、彼は楽しそうに「少し見ていてください」と笑った。何かあるのか？　口を噤んだヒイロは、近くにあったカーテンの端を握り締めた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　なぜ上の甘い部分を引っ張って終了できないのか。それは朝チュンなシーンで、ヒイロが命令されたことを気にしていたからです。すべてヒイロがいいように（笑）してやりたいので、彼が満足できる展開にします。
　一応でぉは告白して手を出しましたが・・・命令して従わせたと言われれば・・・確かにその通り。カトル様としては許せないでしょう（大笑
　
【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・シフェルはプロですから！　そりゃーもう、他家から引き抜き来るレベルでしょう。何しろ、あのデュオを制御（笑）してますし。デュオは我慢し続けてようやくヒイロに触ったので、ケダモノモード発動で、止まらなくなりました。つうか、そこで我慢できたらデュオじゃないし（大笑）理性なんか宇宙の彼方ですよ。お母さんと同じ瞳に惹かれながら、ミニスカートって・・・どんだけハレンチなんでしょう。ヒイロが良く出来た嫁さんなので、きっと今後は手綱を半分くらい預かってくれると思います。シフェルも仕事しやすくなるといいね。
　理緒様・・・豪華なお茶会ですよね。シフェルの給仕だけでノックアウトされそうです（笑）彼氏や旦那にするならシフェルが一番向いてそう。優しくて芯があって・・・。本当にこんなので平気なのか、毎回ドキドキしながらUPしていますが、今日で完結できそう♪　ご満足いただけるなら、それが一番嬉しいです！！
　ラス様・・・リンクの件、ご指摘ありがとうございます。コメント返しをしてありますが・・ストーリーが重複UPされていたようです。ストーリーに欠けはありませんので、ご安心下さい♪