W2×1　【MiyabihimeA】

「あの方は我が主、この程度のケガで命を落とすなど考えられません」
「だが・・銃撃されたのだぞ」
　食い下がる男の心配は、デュオが死んでくれない場合の対応だろう。自ら狙撃を命じておいて白々しい。
　シフェルは撫で付けていた前髪が乱れるのも気にせず、手袋に覆われた右手で前髪をぐしゃりと掻き上げた。身長の低い男を睥睨（へいげい）して吐き捨てる。
「それ程までに、あの方の死を望まれるとは・・最低ですね」
　マックスウェル家の先代当主の兄でありながら、家督を受け継ぐ実力がなかった男。兄弟の情けで与えられたポジションに満足すればいいものを、不当な手段で簒奪を目論む者に掛ける慈悲はあいにく持ち合わせがなかった。
　若草色の瞳が冷徹な色に凍りつく。整っている分だけ、凄みがある執事の表情が僅かに歪んだ、
　使用人である執事に見下ろされたのが気に食わないのか、その発言の不穏さに苛立ったのか。男は激しい口調で詰め寄った。
「キサマ！　使用人の分際でッ！！」
「ならば俺が同じ言葉をくれてやろう。デュオを殺して当主の座に就こうなど、虫けら以下の行いだ」
　この俺が許すと思ったか？
　メイドが開いた隣室の扉から歩み寄る五飛は、鋭い眼差しを６人の男女へ向けた。
「マックスウェル家の内輪もめですわ。張家のご当主殿であろうと、口出しは無用にしていただきましょう」
「黙れ、女・・・我が従兄弟を暗殺しようとした者共が、何の権利をもって俺に口を利く！！」
　細身の女性が傲慢に言い切った語尾を重ねるように、五飛は一喝して他の者を含めて黙らせた。
「残念だろうがデュオは無事だ。最初からウィナー家、張家、バートン家はあれの味方であり、この計画も事前に知っていた」
　廊下に繋がる開かれたままのドアに手を掛け、厳しい顔を見せるトロワが五飛の続きを浚う。
「だが確かにマックスウェル家内部のトラブルだな。当主が不在の今、デュオの権限は一時的に本家の執事に委譲されたと考えるが？」
　意味深に笑うトロワが物騒な結論を匂わせる。
　黒曜石の瞳を煌かせた五飛が、執事であるシフェルへ目配せを送った。間違うことなく意味を受け取り、一礼するシフェルへお墨付きを与える。
「張家はそれを承認する」
　マックスウェル家の先代が亡くなりデュオが成人するまでの２年間、後見人であった五飛の断言に６人の親族は息を呑んだ。
「バートンも賛同する。もちろんカトルも同様だろう」
　普段は穏やかな光を宿すトロワの瞳が、鋭い刃のように男たちへ注がれた。
「後は任せる」
「畏まりました」
　五飛とトロワが踵を返すと、物騒なやり取りに平然としていたメイド達が動き出す。客間へと案内する彼女らに導かれながら、２人はひそひそ小声で話を交わして笑う。その姿に謀略や陰謀めいた暗い雰囲気はなかった。
「さて・・・どのように処分いたしましょうか。”死神”に逆らう者の末路、あなた方は良くご存知でしたね」
　にやりと笑ったシフェルの口調が丁寧なだけに、残された３組の夫婦に恐怖が走る。並ぶメイド達が手に銃を取り出すのを見て、悲鳴や懇願が部屋に木霊した。
　派手な銃声はない。
　だが・・・・部屋は僅か数秒で血塗れになった。赤く染まった絨毯に眉を顰め、シフェルは大仰に溜め息を吐く。
「ああ・・こんなに汚してしまって。仕方のない人達ですね」
　まるでパーティーでワインを零した客の不始末を嘆くような執事は、引き金を引いたメイドへ穏やかな声で命じた。
「明日、絨毯を交換させてください。折角なのでイメージを変えて・・・青を基調にしたペルシャ風にしましょうか」
　６人の死体を無視した声に、若いメイドは涼やかな声で頭を下げた。
「すぐに手配いたします」


　階下での騒ぎを他所に、デュオはヒイロの部屋の前で逡巡していた。ドアを叩こうとした右手を上げたり下ろしたり、結局何も出来ずに立ち尽くす。
「・・・・どうしよう」
「デュオ、何をしている。お前がケガをしたと聞いて飛んできたのに・・」
　呆れ返った様子で肩を叩く主治医ランディに連れられ、自室のソファに座ったデュオはぽつり・・ぽつりと事情を説明する。狙われていることは知っていたから、その分警備を強化した。マックスウェル家の事業の中心は”貿易”だ。武器を主に扱うことから、死の商人”死神”と呼ばれることもあった。
　その為、使用人達は全員トップクラスの傭兵を雇っている。そんな中、ウィナー家から来たヒイロは特別な存在だった。銃を扱う護衛としてでなく、ただ主人を安らがせる為だけのメイド―――おそらくマックスウェルの死神の名も知らないだろう。叔父に誘われるまま窓際へ移動したのは、自分の正面に立つ彼にケガをさせたくないからだ。離れた位置で銃弾を受け、しかし致命傷にならなかったのは外にいた護衛のお陰だった。
　だが・・自分の行為でヒイロを怒らせてしまったらしい。どう対処したらいいのか、何故彼が気になるのか分からないデュオは、そこまで語って口を噤んだ。
　頬の腫れに塗り薬を差し出され、自分でぺたぺたと軟膏を塗る。
「この応急処置はそのメイドが？」
　こくんと頷くデュオへ、ケガの手当てをするランディが苦笑いして指摘する。
「ヒイロと云うメイド、おそらく一流の兵士だ。弾傷に慣れてるだけじゃない。手当てが的確すぎる。第一、あのウィナーの当主に仕えていたなら、銃くらい扱えて当然だ」
　びっくりして目を見開くデュオの肩に包帯を巻き終えたランディは、新しいシャツを上に羽織らせながら背中を押した。
「ほら、行って来い。きちんと話をしないから、お前はいつまでたっても子供なんだ」
　さっさと部屋を出て行ってしまったランディの言葉が、ぐるぐると回っている。
　銃が扱える？　弾傷に慣れてる？　あのヒイロが？
　そのとき、隣室へ通じるドアが僅かに開いた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　いろいろ明らかになりすぎて、自分でも「詰め込んだなぁ」と思います。でもエロ書きたいんだもん！！　←えばるトコか？
　よし！　いけ！　デュオ！！　美しくて強いメイドさんなヒイロをGETする為にケモノになるのだ！！！
　
【拍手コメント御礼】　清美様・・・怪しい手作りチョコで腹を壊さなかったか心配でしたが、喜んでいただけて安心しました。綾雅としてはホワイトデーに届いたお茶セットに浮かれ、そういやヒイロとデュオもホワイトデーに何かするだろうと書いてみました。そこに頂いたお茶セットを登場させたのは、ちょっとした御礼の気持ちです。ささやかですが、ご笑納ください。
　もるもっち様・・・ヒイロをエロテロリストにしたいんですよ！！　だって御足出して、ついでにミニスカートで、きっとチラリズムを極めた上級テクニックでデュオのミジンコ級理性を砕くに違いない！！　そうであって欲しい！！　手榴弾は見事命中しましたので、この後は・・対戦車砲とか・・・・バスターライフル級でしょうか；
　理緒様・・・久々のヘタレでぉに、自分でも萌えました♪　なんか先にデュオが泣いちゃうと思うので（苦笑）最後はどうしてくれよう。そして後日に続けられそうな設定多数。ちらほらしてるのを書いてみたいかもよ・・・。五飛とトロワはほとんど保護者気分。カトルの方が友人として距離を縮めてる気がします。シフェルはもう・・・苦労が染み付いてて・・・彼の一生はデュオの子守で終わりそう（大笑