W2×1　【MiyabihimeA】

　裏口がどこか分からず立ち止まったヒイロは、抱えていた荷物を道路へ置いた。生活用品が入った荷物は重く、両手を塞いでいては身動きが出来ない。だが置いていけば盗まれてしまうだろう。
　困って周囲を見回せば、背後に黒塗りの高級車が止まった。きょとんとして見つめるヒイロへ、するすると窓が開いて青年が顔を見せる。人懐っこそうな笑顔でヒイロを手招いた。
「こんな場所で何してるんだ？」
　小首を傾げた彼は、後部座席に納まっている。ということは・・・少なくとも自分で運転する身分ではないだろう。失礼な口を利くと後が面倒だ。素直に近付いたヒイロが視線で背後の屋敷を示した。
「メイドとして、こちらのお屋敷にお世話になるヒイロ・ユイです。裏口が分からなくて・・」
　すると青年は意外な行動に出た。
　警戒する様子なくドアを開き、「おいで」と車に誘うではないか。
「・・・？」
　思わず後退ったヒイロの様子に苦笑し、「あれ」と屋敷を指差した。
「オレの家だから。裏口は反対側で遠いから、乗ってっちゃえよ」
「は？」
　失礼と思うより早く、「ありえない」と呟きが漏れた。
　これが主か？　この屋敷の？　マックスウェルの当主？　まじまじと彼を見つめ、確かに高そうな服を着ていると納得する。だがこの警戒心の無さは問題だ。
　つい先日までヒイロが世話になっていたウィナー家のカトルは、よく狙われることもあり用心深かった。こんな軽率な行動はしない。撃たれたり誘拐される心配をしていないのは、彼の言動から伝わった。
「早く、ヒイロ！」
　今度は車の外へ身を晒し、立ち尽くすヒイロの腕を掴んで車に引っ張り込む。足元の荷物を拾い上げるのが精一杯のヒイロを車に乗せると、デュオは笑顔で運転手に告げた。
「ＯＫ，クルマ出して」
「かしこまりました」
　丁重に応じる運転手の視線が・・・正直、痛い。バックミラー越しに突き刺さる視線に困惑しながら、今日から主となる青年をそっと観察した。
　ブラウンの髪は長く、腰まで届く三つ編みだ。男にしては珍しい。青い瞳の色と整った顔立ち、すらりとした長身をスマートにスーツで包み、身のこなしは上流階級の家柄に相応しかった。だが・・・スラング混じりの発音は何故だろう。
「気楽にしてていいぜ。うちはカトルのとこほど厳格じゃないし・・」
　車は高級車に相応しい動きで、ゆっくり左折した。塀を左手に見て走っていたので、どうやら正門を潜（くぐ）ったらしい。
「あの・・下りて歩きます」
「ん？　別にいいじゃん。それより堅苦しい敬語は禁止。どうせ同じ年くらいだろ」
「そういうわけには・・・」
「命令でも？」
「・・・・・・・・・・わかった」
　命令―――自分に言い聞かせた。周囲がいい顔をしないだろうことは、運転手の反応を見ればわかる。それでも・・主人の命令に従うのがメイド。溜め息を吐いて己を納得させた。
　運転手が開けてくれたドアから促されたヒイロが先に下り、続いて主が鼻歌を歌いながら姿を現す。正面玄関は大きな噴水があるロータリーの前だった。会話が出来るほど長い時間かかる正門は、かなり向こうに辛うじて確認できる。かなり広い敷地だった。
　芝がなだらかな丘を作り、塀に近い外側を森林が覆っている。
　丘の頂上に作られた屋敷は５階建てで、レトロなレンガ作りだった。壁に這う蔦が風に揺れる。随分年代物の建物らしい。立て直した最新ビルのウィナー本家とは対照的だ。
　ずらりとメイドが並ぶウィナー家と違い、思ったより出迎えの人数が少ない。屋敷の規模から考えれば、３０人くらいは使用人がいるだろうに・・・・・。
「ご苦労さん。皆、仕事に戻っていいよ」
　ひらひらと手を振って、さっさと中に入る主を見送るヒイロは立ち尽くす。使用人たるもの、正面玄関からの出入りは許されない。後で誰かを捕まえて・・・・そんなヒイロの思惑を、この破天荒な主はあっさり崩した。
「あ、ヒイロ・・・用があるから着いて来い」
「デュオさん！」
　咎める意図で名を呼ぶブロンズ色の髪の青年は、黒服から判断して執事だろう。主の敬称が「さん」であることに首を傾げるが、ヒイロに逆らうという選択肢はなかった。
「畏まりました」
「・・・敬語はなし！」
「わかった」
　再び釘を刺され、ヒイロは荷物片手にデュオの後を追った。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　うぉ！　想像つかない・・金持ちでお坊ちゃんなデュオ（笑）、そして似合ってるよ・・執事シフェル（大笑）　きっと主に迷惑を掛け捲られて、心労で胃薬を常備してるだろうな。
　そして新たに屋敷に配属・・じゃなくて、勤務することになったメイドなヒイロ。元はウィナー家で優秀なメイドさんだったのですが・・・ある事情でマックスウェル家に転属・・ならぬ転勤となりました。その事情は後日（笑
　
【拍手コメント御礼】　匿名希望様・・・感想ありがとうございます♪　拍手ＳＳなかなか更新できなくてすみませんでした。
　もるもっち様・・・お久しぶり！　元気だった？？　デュオの日が無事終わり、昨日はワインで乾杯しました。ちなみに旦那は意味が分からず「お祝い事？」と首を傾げていましたが；；　拍手ＳＳは・・・次回、シフェルの復讐と題して続きます・・・と思う（笑