W2×1　【MiyabihimeA】

「悪いな、見舞いに来てもらって」
　果物篭や花で埋め尽くされた病室で、デュオは友人達へ感謝を示す。まだ包帯が巻きついた姿は痛々しいが、先日の死人じみた顔色が回復して笑顔を浮べているだけで、印象はかなり違った。
「本当に心配しましたわ」
　花束を抱えたリリーナの声に、カトルも同意の頷きを送る。背後の五飛とトロワが顔を見合わせ、ベッドを挟んだ向かいに座るヒイロへ視線を向けた。
　普段は恥ずかしがるヒイロだが、瀕死で危篤状態だったデュオが生還したことで吹っ切れたのか。人前にも関わらず、指を絡めた手を頬に押し当てている。真っ直ぐな視線をデュオへ注ぐヒイロが、ふと顔をドアへ向けた。
「すみません、失礼します」
　丁重な口調で断りを入れながら、隙間から入り込んだシフェルが苦笑いした。
「デュオさん、こちらの書類にサインをお願いします」
　数枚の書類を翳してみせる。動くようになった両手だが、左手はヒイロが握っていた。その為、右手を差し伸べて受け取る。さっと目を通して、ベッドサイドのテーブルに置いた。
「ペン・・」
　部下が胸ポケットから取り出したペンを渡せば、慣れた署名をぎこちなく書き記す。両手の指先は拷問によりズタズタで、ペンを握る仕草すら激痛を齎した。額に汗を浮べながら書き終えた書類に溜め息が落ちる。
　普段は書類から逃げるデュオだが、これは自ら決裁するとシフェルに伝えていた。
　拷問によって殺されたセドリック―――彼に関する報告書と遺品の整理について。他の誰にも任せる気はなかった。セドの身内で所在の確認できた存在はない。セド自身が探し出した妹もテロで死に、もう誰も残っていなかった。情報部の追跡調査の結果にも、やっとの思いでサインを施したデュオがペンと一緒に書類を手渡す。
「丁重に・・な」
　スイーパー・グループの上位エージェントに相応しい弔いをしてやれ。命令ではないが、限りなくそれに近い言い方を選んだデュオの心情を慮り、シフェルは無言で頭を下げた。
　深刻な雰囲気を感じ取ったカトルとリリーナが顔を見合わせ、淡く微笑んで立ち上がる。
「それでは、私達はこれで失礼いたします」
「また顔を出すよ、デュオ」
　２人の挨拶に「ああ、サンキュ」と気軽に応じたデュオは、部外者が退室した瞬間に表情を引き締めた。
「・・・何か聞きたそうだな」
　シフェルの緑瞳の訴えを正確に読み取ったデュオの促しに、ブロンズ色の髪を揺らして頷く。
「ジークフリード・フィッシャーの右腕を落としたのが、デュオさんだというのは本当ですか」
　疑問系を取りながら確信を持ったシフェルの声に何を感じたのか、青紫の瞳を僅かに伏せたデュオは視線を合わせないまま口を開いた。
「・・誰から聞いた？」
「レイルさんです」
　じっと聞いていたヒイロが、記憶に残るやり取りを思い出して納得する。礼儀正しいシフェルが目上のレイルに食ってかかった、あの言葉は今回の首謀者ジークフリードに関わる事だったのだ。そうなると、ヒイロも気になることがあった。
《これは・・・、本当なんですかッ！？　私が知っているのは・・》
《本当だ》
　シフェルとレイルの会話。シフェルが知っている過去と、レイルが見つけ出した事実の差異は何を意味する？　そして何故、事実と違う話がシフェルの耳に入っていたのか。故意に流したとしたらデュオの作為だろう。
　一度瞼を伏せて沈黙を返したデュオが、覚悟を決めた様子で顔を上げた。青紫の瞳に僅かに走った感情は、読み取るより早く消されてしまう。
「おまえが知るのは、ジークの右手は任務遂行中に敵に切り落とされた・・・だろ？」
「・・・はい」
　確認するデュオは溜め息を吐き、ちらりとヒイロへ視線を向けて苦笑いを浮べた。
「敵じゃない。オレがこの手で切り落とした」
　断言して、過去を思い出すように視線を自分の指先へ落とす。空調に煽られたカーテンがふわりと影を揺らし、ヒイロは手に力を込めた。指を絡めたデュオの左手を、守るように包んで見守る。
「あの戦闘は酷かった。１２名で臨んだ任務は予想外の苦戦を強いられ、生き残れたのはオレとおまえ、ジークの３人だ。あの日、ジークが傷だらけだったのを覚えているか？」
　無言で頷いたシフェルの所作を確認し、デュオは薄く笑みを作った。
「アイツは銃弾を受けて倒れ、敵に捕らわれたのをオレが救い出した。時間にすれば僅か１０分程度の出来事だ。奪い返したアイツの右腕は赤黒く腫れて・・何か薬物を打たれたのは間違いなかった。全身に回る毒を見過ごすか、腕を切り落として命を繋ぐか。迷うジークの返答を待たずにオレは・・・」
「お前の決断は正しい」
　口を挟んだヒイロが断言する。
　恋人を庇うのではなく、淡々と事実として肯定した。しかしデュオは首を横に振って、迷いながら話を続ける。
「・・・命に関わる毒じゃなかったんだよ」
　レイルにそこまで聞いていたシフェルは、ぎゅっと拳を握り締めた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　叫んでいいですか？　「終わらねぇ！！！！！！」
　・・・・どうしたらいいでしょう。思ったより裏設定をしっかり作ってしまい、今回を逃したら公開できないと思うと・・・書いてしまいます。正直、読んでる方々は「・・・ジークなんてどうでもいい」のでしょうが、彼にも理由があって・・それによって苦しんでるデュオがいて・・・でもヒイロとシフェルはジークを殺してでもデュオを選ぶ人たちで・・・そんな雰囲気を書きたいんですよ；；