W2×1　【MiyabihimeA】

　淡々と、まるでゲームのように銃爪を引く。ヒイロの表情に感情の色は微塵もなかった。
「ヒイロさんの援護を！　Ｆパターンで各自展開してください。総指揮をジャックさんに任せます」
　特攻隊長を自負するジャックの「おい、待て」という制止を無視して、シフェルはヒイロの後に続いた。愛用の銃を抜くと、目についた敵を片っ端から餌食にしていく。
　ちらりと背後のシフェルを確認したヒイロが、少しばかり無理をして前方へ身を進めた。転がった先で足元を掠める銃弾に、見ているシフェルの方が肝を冷やす。もしヒイロに何かあれば、自らの命の保障はない。怒り心頭の上司に冷たい笑顔で切り捨てられる未来を想像し、ぞっとした。
　インカムから飛び込む報告を確認しながら、着々と制圧される状況を脳裏に描く。先日の作戦に参加したヴィリを含め、今回のメンバーはシフェル自ら選出した上位エージェントばかりだった。間違っても捕まって足を引っ張ることがない者という基準で選出された彼らは、組織の№２の期待に応える働きを見せていた。
《・・左の階段を確保》
「了解」
　フレデリックからの報告に、ヒイロへ小さく合図を送る。気づいたヒイロが蒼い瞳を細めて頷き、手にした手榴弾を放りなげて敵を散らした。パニックになる戦場を離れ、ビルの隅にある左側の細い階段へ駆け寄る。
　レイルに渡された見取り図を開いてヒイロに示した。
「現在地です。左側は私が向かいます。こちらを・・」
　建物の左端の階段から左・・つまり正面から見て裏手に当たる方角をシフェルは探すつもりらしい。反対側を任せたいと示され、逡巡したのは僅かな時間だった。
「わかった」
「では、連絡用にインカムをお預けします」
　予備を取り出してヒイロに渡すと、シフェルはフレデリックを伴って階段を駆け下りる。インカムを装着したヒイロが後に続いた。降りた先は薄暗いコンクリートの壁が続く廊下だ。
　左右に分かれるＴ字路で、互いに視線を交わした直後走り出した。
　地上で行われる戦闘の音が、地下にも響いている。その為か、誰かと遭遇することなく進むヒイロがふと足を止めた。
　何か嫌な感じがする。
　視覚、嗅覚、聴覚・・・研ぎ澄まされた様々な感覚が、不思議な違和感を訴えるのだ。恐怖を呼び起こすような危機感でない感覚に、ヒイロは銃をしっかり握り直した。じりじりと後退って壁に背を預ける。
　・・・？
　背中が温かい。壁に向き直り、一度周囲を見回してから左手を這わせた。やはり温かい気がする。左右上下に手を滑らせれば、熱の発生源が右側らしいとわかった。
　地下に置く必要がある熱の発生源―――データを保管するサーバーか、はたまた発電機か。しかしそれにしては熱が足りない。常時熱を発する物があるなら、壁は変色していることも少なくないのに・・・・。
　誘われるように耳を押し付けた。何も聞こえない壁にヒイロは見切りをつけて溜め息を吐く。過剰に反応し過ぎているのだろう。そう結論付けて歩き出し、左手側に見えた通路に足を止めた。
　見取り図は確認して暗記しているが、この通路はこんなに広かったか？　もっと狭くて・・・荷物を運び入れて保管するだけの倉庫が並ぶ場所だった。埃が積もる廊下の一部に、足跡が残っている。
　気配を押し殺して、逸る心を抑えながら近付いた。指でなぞれば、手につく埃は僅かだ。どうやらつい最近も誰かが通ったらしい。複数の足跡が続くのは、ヒイロが最初に通った廊下に最も近い部屋だった。
　一度振り返って距離を測り、先ほど熱を感じた壁と一致することに気づく。
　カシャ・・・外した安全装置を指先で確かめ、遊底を引いて新たな銃弾を装填した。
　ドアノブに手を伸ばし、爪で触れて安全を確かめる。電流などのトラップは仕掛けられていない。ノブを回し、細くドアを開いた。中から零れる照明の眩しさに目を細める。明暗反応に優れた目は、すぐに室内の様子を映し出した。
「・・・っ！」
　―――見つけた！
　血の臭いが充満した室内に、見慣れた人影が座らされている。高鳴る鼓動を震える深呼吸で押し留め、飛び込む前に状況を確認する。椅子に拘束されたデュオを中心に、斜め後ろの両側に屈強な男が２人、こちらに背を向けた男が１人。ヒイロ単独でも相手が出来る人数だった。
　ひとつ息を吸い込み、ドアを一気に押し開く。
「動くなっ！」
　ありきたりの言葉で制止を命じ、ヒイロは室内へ足を踏み入れた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　あららら・・・ヒイロさんが先に見つけました。まぁ、これは当初からの予定通りです。シフェルが見つけてもいいかと思ったんですが、やはりデヒだし♪　ヒイロに見つけてもらおうかなぁ・・・と。
　しかし熱源があるからって壁に温度が伝わるなんて・・・随分安普請なビルですこと（笑