W2×1　【MiyabihimeA】

「上司は君を見捨てるそうだよ」
　ジークがセドに語りかける。その言葉にうっすら目を開いたセドが、赤い血に濡れた唇を引き上げて笑みを作った。まるでデュオの言動こそ当然と肯定するような表情は、どこか誇らしげにも見える。
「・・・・なるほど・・」
　屈んでいた身を起こしたジークが冷たく吐き捨てた。この後、彼が口にする冷酷な命令を予感し・・同時に諦めの境地で待つ。デュオの瞳に一瞬だけ痛みの色が走った。
「・・・殺せ。切り刻み、元の姿が分からぬ程に痛めつけてやる」
　表情を、顔色を変えるわけに行かない。ジークの命令に従う男達がセドに手を伸ばしても、助けることが出来ない今は無表情を貫くだけだった。反応すれば、彼を生き永らえさせて苦しめる手段に変更される。それは助かることのない命を無駄に痛めつける結果になるのだ。
　視線を逸らさず、最後まで見届けてやるだけ。必ず仇を取ると心に誓い、引き結んだ唇を噛み締める仕草すら己に禁じた。
「・・・ぐぁ・・・っ、ぁあ・・」
　転がる無防備な体に、深く刃が突き刺さる。手の指を１本ずつ刻み、最後に手枷の縁から手首まで落とした。鉈のような刃物が振り上げられ、打ち下ろされる度に、耳を覆いたくなる苦痛の叫びと骨を砕く鈍い音が聞こえる。
　いっそ自分の手足を奪われた方が、どれだけ楽か。
　両手を切り落とされたセドの周囲は、真っ赤な血溜まりが出来ていた。その量を見ながら、まだか・・・と天を仰ぎたくなる。足りないのだ。まだ・・・彼が命絶えるには少なかった。失血だけで死ぬのは時間がかかる。もう少し・・・この倍ほども出血すれば、彼は出血性ショックを引き起こし血圧が下がって心停止する。
　セドの命の残量をカウントするデュオの耳に、だんだんと早くなる呼吸が掠れて届いた。
　あと・・・３０分保たない。
「バラバラにしろ」
　解体を命じる声の主は、栗色の瞳をデュオに据えたままだった。冷たい顔で我関せずといった雰囲気のデュオを、愉悦を含んだ眼差しで見つめる。この仮面の下で、どれだけデュオが苦しんでいるか。いつまで耐えられるのか。
　死神と呼ばれる男が存外身内に甘いことを、ジークは過去の経験から知っていた。
「ぐ・・っ！　うぁあぁ・・・っ、あ、・・・ぎゃ・・ぁ・・ぁ」
　肘、肩、足首、膝、太股・・・順番に末端から叩き切る鈍音が、弱くなる悲鳴と一緒にデュオの精神を痛めつける。やめろと叫ぶのは簡単だった。だが・・・それは出来ない。
「・・・・・ぅﾞ・・、ぁ・・・ッ」
　ついに苦鳴すら漏れなくなり、ひゅっと吸い込んだ空気音を最後にセドの瞳孔から光が消えた。噛み締めて砕けた歯と血を吐いた口元、どす黒い血に染まった全身は手足をもがれ、ナイフを埋められた腹部から内臓が零れている。人間としての最低限の形すら許さないのか、鉈は最後に死体の頭を砕いた。
　ぐしゃ・・・潰れる音が、セドという存在を完全に否定する。そこにあるのは肉片と大量の血、元は人間を構成していた欠片だった。
　目を見開いたまま息絶える者は、最期まで苦しんで死んだと聞く。赤い海が足元まで流れ、目の前を完全に埋め尽くしていた。彼の無念を示すように、デュオの足まで届いてじわりと沁みる。
「さて・・気が変わったかな？」
　何もなかったみたいな顔で、ジークがデュオの瞳を覗き込む。青紫の瞳が僅かに伏せられ、その口角が少し持ち上がる。薄笑いを作ったデュオが愚かな男へ吐き捨てた。
「オレを舐めるな」
　誰が従うか。
　手足を切り落とされ、セドのように死ぬとしても媚び諂うよりマシだ。この男に屈するなら命を捨てるだろう。セドがそうしたように・・・・。どんなに醜く哀れな姿になっても、心を曲げて生きようとは思わなかった。
「・・いい覚悟だ」
　くつりと喉の奥を震わせたジークが、デュオの髪を後ろに引いた。仰け反らされた姿勢で、真上から視線を合わせる男はデュオの首にナイフを滑らせる。滲んだ血が肌を赤く染めた。掴んでいた手を離したジークが笑みを深める。
　全身十数箇所の刺し傷へ目をやり、セドの死体を片付ける男達に命じた。
「・・・殺さない程度に痛めつけろ。ああ、後で使えないのは困るな」
「わかりました」
　これから自らに降りかかる激痛を瞬きひとつで覚悟したデュオは、近付く男達の手が伸びても取り乱す様子はなかった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　うわ・・・セド死んじゃった。つうか、最初は殺すつもりじゃなかったんだけど・・・汗；←デュオのような言い訳；　デュオさん、助けが来ることを半分くらい諦めてますね。間に合わないと思ってるみたいです。事実、ぎりぎりまで行くので・・・ま、外れではないけど。
　あちこち切り刻まれちゃったセドは、後でちゃんとデュオが葬ってくれるといいな。デュオは弱みを見せるくらいなら、命を絶ちそうです。ただ自害するのは負けを認めるみたいで嫌な人だから、その心配はなさそう。喋るくらいなら舌を噛み千切るくらいしそうだけど（苦笑）　とにかくプライドの塊みたいな人間だからなぁ・・・。それしか持ってないんだけどね。

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