W2×1　【MiyabihimeA】

２１：２１
　静かな店内の様子を確認し、デュオはインカムへ指示を出す。
「各自予定通り、持ち場について待機しろ」
　短くジャックとヴィリ、イヴァンの返答が戻る。店舗の地図は情報部が入手済みで、そこから侵入ルートを割り出したデュオの命令で３班は分散して配置された。正面はジャックに任せ、裏口をヴィリが受け持つ。
　１２階建てビルの１階が銀行の店舗で、その上に銀行の本部機能が分散している為、このビルはすべて銀行の所有物だった。店舗内で人質となった者以外は、すでに屋上のヘリポートや非常階段から脱出している。
　隣接する各ビルの非常階段へ配置されたイヴァンの部隊は、狙撃ライフルを手に銀行の窓や出入り口へ照準を合わせた。あとは・・・現在屋上に立つデュオが突入したタイミングを計って、表と裏から一気に制圧するのみ。
　にやりと口元に弧を描き、死神は空の満月を仰ぐ。
　冷えた夜空を煌々と照らす月にウィンクをひとつ、屋内へ身を滑りこませた。無人のフロアを横切り、降下準備をしてエレベーターを地下の駐車場へ下ろす。パネルの配線を弄ってエレベーターのドアを開けると、暗闇がぽっかり口を開けていた。太いワイヤーへ手を伸ばして掴むと、腰のベルトの金具を取り付けて滑り降りる。特殊な手袋越しでも摩擦熱が伝わり、じわりと皮膚を焼いた。
　顔色ひとつ変えずにエレベーターの箱の上に降り立ったデュオは、内部から配線を引っ張り出してドアを薄く開く。
　見えるのは廊下の明かりだけ。物音は遠く、近くに人の気配もなかった。確認してドアをさらに開け、１階のフロアに侵入する。
「オレだ、最初の銃声を合図に飛び込め」
　部下の応えを聞きながら、絨毯の敷かれた廊下を歩く。普段と変わらぬ無造作な歩みは、まったく音を立てなかった。店内を見渡せる位置で、現在の人質と犯人の配置を頭に叩きこむ。
「いた・・・」
　床に転がるシフェルを髪色で判断し、次いで人質として銃口を向けられている数名の女子供の中にクリスの金髪を見出した。

２１：３４
　足首を引き寄せ、ワイヤーを絡め取る。ピアノ線より細く丈夫なワイヤーを右手に巻くと、ゆっくり・・・犯人を刺激しないように手首の戒めを切り始めた。縄のような感触だが、冷たさが違う。金属を使った特殊な縄なのだろうと判断したシフェルは正しかった。
　じわじわと食い込ませていくワイヤーが、時折悲鳴を上げる。本来は引き抜く勢いなどを利用し、カマイタチの鋭い断面を見せて切り裂く武器だった。ナイフやのこぎりのような使い方は、使用目的に合わない。切れてしまう可能性もあった。
　慎重に動くシフェルの指がぴたりと動きを止める。
　・・・・デュオさん？
　覚えのある気配を感じ、出来るだけ頭を動かさないように気配のある斜め前に視線を向けた。廊下へ続くドアが僅かに開いており、小さな光が点滅する。何かが反射しているようにしか見えない光は、確かに上司であるデュオからの突入を知らせる信号だった。
「あの・・・・」
　犯人達の気を引く為に声を上げる。クリスが視線を向けた瞬間、唇でデュオの来訪を告げた。目を瞠るクリスが瞼の動きで了承を伝える。
「なんだ？」
「・・・外部と交渉するなら、私がお役に立てると思うのですが・・・」
　周囲をプリベンターが封鎖してから、犯人達は立て篭もりの体勢に入っていた。それを打開する手段を持っていると匂わせながら、シフェルはようやく切れた縄を気づかれぬよう体の下へ隠す。
「おまえがか？」
　胡散臭そうな視線に、穏やかに切り替えした。
「スイーパーグループをご存知ですか？　私はそこにツテがありまして・・・」
　逃がして貰えるよう頼んで上げましょう。
　続ける筈だった言葉は、そこで途絶えた。

　　　　　To Be Continued....