W2×1　【MiyabihimeA】

　見上げるデュオの青紫の瞳を意識しながら、顳にもキスを降らせた。
「・・・ヒイロ？」
「褒美をやる」
　短い言葉ながら、それはベッドへの誘いとイコールだった。下から伸ばされた手が自分を抱き締めるのを待って、ヒイロはデュオの首筋に顔を埋める。そのまま・・・迷いもなく体重を預けた。
「・・・っ！」
　さすがに声を殺したものの、デュオの呼吸が乱れる。
　両腕で抱き締めていた為に、痛みに引いた左手の動きを隠しきれなかった。距離があれば気づかれずに済んだ僅かな動きだが、密着した状態では無理だ。
　やられた・・・っ！
　ヒイロの策略に嵌まったデュオを、冷たい蒼の眼差しが貫く。先ほどの笑みが嘘のように、怒りを湛えた瞳が揺らめいて見えた。赤い唇が僅かに開いて、一度引き結ばれる。
「・・・隠す気だったのか？」
「ゴメン」
　謝罪以外に言葉が見つからない。
　一緒に戦うと決めた日から、互いのケガも体調不良もミスも隠さないと約束した。共闘する以上、一心同体なのだとヒイロにそれを求めたのはデュオ自身。提案しておきながら、自ら偽った罪は重い。
「傷を見せろ」
　深呼吸して覚悟を決めたデュオがシャツを脱ぎ、左肩のすぐ下にある傷を晒した。簡単にガーゼを当てただけの傷口に目を細めたヒイロが、慎重にガーゼを剥いでいく。掠めた銃弾が切り裂いた肌は、ヒイロの当初の予想を裏切る軽傷だった。
　再度消毒し、傷にガーゼと包帯を丁寧に巻いていく。
「・・・・・本当にゴメン」
　重ねて謝るデュオに、氷さながら冷たい声で尋ねる。
「鎮痛剤は？」
「さっき・・飲んだ」
　ここに嘘はない。だが、即効性の薬が完全に効いていなかっただけ。
　実際、治療の際に呻くこともなかった為、ヒイロも素直に信じたらしい。身を起こしたヒイロが無言で手を差し伸べ、迷った末に右手を重ねる。引っ張って起こされたデュオの頬に、ヒイロの平手が飛んだ。
　パチン、軽い音はしたが痛みはさほどない。
「あの・・・」
「次に同じ事をしたら、許さない」
　黄金の右足が飛んでくるだろう。想像するだけで痛い気がして、まだむっとした顔のヒイロに「わかった」と応じた。
「二階に行くぞ」
　促して階段を上がるヒイロについていくデュオだが、部屋の目の前でくるりと振り返った恋人の表情に足が止まった。にやりと表現したくなる、他人には隠している本性が滲んだ笑顔・・・・そして、ドアの内側に身を滑り込ませた彼は傲慢に告げる。
「今日は自室で寝ろ」
「え？　一緒じゃダメなの？？」
　素で驚きを顔に出すデュオへ首を横に振った。
「少し反省しろ、ケガ人のくせに・・」
　無情にも閉じてしまった扉の前で、デュオが溜め息を吐く。
　しかたない。これ以上ヒイロを怒らせると、家から追い出されかねない。彼が眠った後にそっと寝顔を見て、また明け方に戻れば大丈夫だろう。・・・と、再びドアが僅かに開いた。
「そうだ、朝までこの部屋には入るな」
「・・・・」
　約束できません。
　デュオの無言の抵抗に、ヒイロはイイ笑顔で強要する。
「わかったのか？」
「―――了解です」
　項垂れて、普段は使わない自室でベッドに寝転んだ。

　翌朝・・・・。
「・・・・おはよう、ヒイロ」
　目が覚めたデュオは、目の前にある黒髪に違和感なく声をかけ・・・起き上がりかけた体を止めた。ゆっくりベッドを振り返れば、やはり隣に眠っているのはヒイロだ。
　部屋への立ち入り禁止を命じられた経緯を思い出し、デュオの顔が青ざめていく。急いで出なくては・・・慌てるデュオの三つ編みをきゅっと掴んだヒイロが、小悪魔のように魅力的に微笑んだ。
「安心しろ、ここはお前の部屋だ」
　お前でも寝ぼけるんだな。
　そんなニュアンスによく確認してみれば、確かに自室のベッドだった。ほっと息を吐いたデュオの頬に手を触れ、僅かに赤く腫れた部分に唇を寄せる。
「懲りたか？」
「十分・・もう隠し事はしません」
「明後日の仕事は延期するよな？」
「それは無理」
　予告状出しちゃったから。
「しかたない、今回だけ協力してやる」
　探偵であることに誇りをもっている恋人の思いがけない提案に、それだけ心配させたのだと理解した。
「うん・・・悪いけど、頼む」
　だからデュオも拒まずに、ヒイロの言葉を受け入れる。
　唇、頬、額、眦・・・顔中にキスを降らせ、最後にもう一度唇を重ねた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 NEXT....

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　・・・それで？といわれたら、何も答えられない綾雅です。次のお仕事まで引っ張って書くとエピソードが多すぎて、終わらないな・・・と。あくまでパロパロだし、コナンは別に書いているので・・・ごちゃごちゃになってしまいまして・・・。
　最初に「月下の奇術師」とかを強調した割りに、今回マジックが出てきてないことに今気づきました；

【拍手コメント御礼】　74ちゃん・・・いかがでしょ？　コナンの一部として成り立ってますか？　お持ち帰り分は送信しますので、ご安心あれ。
　もるもっち様・・・アレしかない＝色仕掛けでした（笑）　大型犬デュオは、結局叱られて耳と尻尾を垂らして「ハウス」でしたが、その後、甘いご褒美をもらいました♪