W2×1　【MiyabihimeA】

　にこやかに切り返す部下に、面の皮が厚いデュオも表情が引き攣った。朝の出勤途中で誘拐同然に連れ去られ、強引に座らされた机の上は今にも崩れ落ちそうな書類の山。スイーパーへの出勤は昨日までだが、面倒くさがって手をつけなかった書類達に心当たりが大有りだった。
「安心してください。プリベンターには連絡をしておきました」
　・・・・今日からヒイロと一緒なのに・・・。
　恨めしそうな眼差しを、シフェルはばっさり切って捨てた。
「ヒイロさんに”甲斐性なし”の烙印を押されたくなければ、頑張って片付けてください」
　緑の瞳を冷たく煌かせ、口端を持ち上げて笑みを作ったシフェルの言葉は、暗に”ヒイロに言いつけるぞ”と脅していた。ごくりと喉を鳴らして首を振ったデュオが、とりあえず１枚を手にとって署名する。速読した内容を一瞬だけ考え、次の書類に×印を書き込んだ。
　ちらりと視線を向けた先で、部下は満足げに次の書類を差し出す。
　どうやら今日は逃げられそうにない。諦めて溜め息を吐いたデュオは・・・うんざりするほど溜め込んだ大量の紙切れに戦いを挑む決意をした。

　紅茶のカップを片手に、ヒイロは小首を傾げる。両手でカップを持ち、熱い紅茶にふーふーと息を吹きかける姿は幼さを感じさせた。デュオがいれば「ヒイロぉ～♪」と身悶えること間違いなしだ。
　向かいに座った五飛は自分用の烏龍茶を飲み、茶菓子のクッキーを齧る。さくっと歯ごたえの軽いクッキーは近所でも評判で、彼らの最近のお気に入りだった。
「・・・デュオは？」
　どこか違う部署へ手伝いに行ったのだと思っていたヒイロだが、さすがにお茶の時間も帰って来ない夫の不在にようやく疑問を持つ。
「デュオはスイーパーだ」
　トロワの断定に、視線を壁の予定表へ向けた五飛が納得した様子で頷く。
「出勤予定を書き換えてある」
　几帳面さをよく表したレディ・アンの字で予定表に修正が加えられていた。振り返ってじっと文字を見ていたヒイロが眉を顰める。
「今日はプリベンターだと言っていたのに・・・」
　語尾をクッキーと一緒に噛み砕いたヒイロの不機嫌そうな声に、トロワが苦笑した。
「出勤途中で部下に拉致されていたぞ」
「・・・・・シフェル？」
　思い当たる人物は、彼ぐらいだ。まずデュオを拉致できる実力の持ち主は少なく、さらに反撃せずに連れ去られた様子から、身内である可能性が高かった。エージェントとして冷静に判断する反面、ヒイロは不満を訴える感情を持て余す。
　普段ならデュオがやってくれるのに・・・と内心愚痴りながら、自ら砂糖とミルクを加えてスプーンで混ぜる。甘いミルクティを渋い顔で飲み干した。まるで自棄酒の勢いである。
　　ブーッ、ブーッ！！
　派手なブザーが鳴り、顔を見合わせた３人は表情を強張らせた。慌ててディスプレイを覗き込むヒイロの背後から、トロワと五飛も同様に後ろから顔を覗かせる。
　届いたばかりの指令書を目に焼きつけ、ヒイロが机の引き出しから銃を取り出した。奥からカートリッジも取り出し、予備弾丸を大量にポケットへ捻じ込む。あっという間に準備の整った元テロリスト改め超一流エージェント達は、慌（あわただ）しく部屋を後にした。

　銃撃戦が繰り広げられるビルは、以前まで百貨店が入っているショッピングセンターだった。親会社が倒産した煽りを受けて閉鎖された店舗は、入り組んだ作りが祟って、今はテロリスト達に都合のいい隠れ家として役立てられている。
　もちろん彼らが家賃を払う筈もなく、困った大家（某有名政治家）が政府に泣きついたのが事の発端だった。
　飛んでいく銃弾に「下手くそ」と悪態をつき、慣れた所作でトリガーを引く。
「デュオさん、殺さないでくださいよ」
「わかってる」
　大声でやり取りしながら、デュオは再び銃を構えた。扱いなれた銃は１９５年以前から命を預けてきた相棒であり、毎日の手入れを欠かしたことはない。冷たい銃身をひと撫でし、リボルバーに銃弾を詰める。本当なら銃弾が６発しか充填できないリボルバーより、２２発のセミオートマの方が使いやすい。しかし、こういった職業に就く人間特有の”意地”と”験担（げんかつ）ぎ”は時代に関係ないらしく、デュオも古いリボルバーを大切に使っていた。
　最新鋭の銃と違い、少し重い音がする。
「しかし・・・なんで現場なんだ？」
　オレは書類を片付ける為に拉致（らち）られたんじゃなかったのか？　当然とも言えるデュオの発言に、敵を撃ちぬいたシフェルが応じた。
「事務処理の半分は引き受けますから、任務に集中してください！！」
　今回の任務は政府経由だ。テロリストが入手した情報ディスクを奪還するのが最優先事項、続いてテロリストの捕獲もしくは殲滅となる。誰がディスクを持っているのか分からない以上、１人でも逃がすわけにいかなかった。
「今日は予定通り、５時には帰りたいんだけどなぁ・・・」
　ぼやいたデュオが左側の敵を倒し、気配を感じた右側を振り返る。
「はぁ？！」
　奇妙な・・・いや、素っ頓狂な声をあげたデュオの顎が外れそうになっていた。それだけ驚いたのだろうが、驚かれた相手もびっくりして目を見開いている。
「デュオ・・・？」
「・・・・ヒイロ♪」
　見つけた最愛の奥様の名を呼び、デュオは満面の笑みを浮べた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

　

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　ちょっと任務っぽい雰囲気がありますが、結局ギャグつうかコメディっていうか。もう明るい話なので、あまり真剣に読まないでください。結構笑える展開にしますよ！　←何故かここに力が入る（苦笑）

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・手馴れたシフェルの捕獲、それだけ回数をこなしているんでしょう。そしてヒイロのキスを反芻しながら歩いているデュオは隙だらけ（大笑）　簡単に拉致られてしまいます。会社ではトロワもデュオも「夫にしたい男性職員」とか「恋人にしたい男性職員」として人気ありそうですが、本性はそれぞれの奥様のみが知る（爆笑）
　ユウキ様・・・バカップル全開です！！　３年目の浮気？え？何ソレ、美味しいの？状態のデヒと、まだまだ本当に初々しいトロう～♪　今後の展開をお楽しみに♪
【コメント御礼】　ハヤマ様・・・お久しぶりです！！　何かトラブルがあると改装していますが、今回もそうでした。まぁ、たまには整理しないとグシャグシャだからいいけど。人外は・・・本当は押し倒して食べちゃえと思ってたんですが、皆があまりに期待しているので・・・・裏切ってみました（笑）　続きがキリリクになったので、近々またＵＰします。・・・どうして雅姫の話はキリリクなのに続編ばかりなのだろう？？？　後、ＳＮＳありがとうございます♪　あとでメッセ入れときますね♪