W2×1　【MiyabihimeA】

「待てって、ヒイロ」
　ぐいっと左肩を掴んで無理やり呼び止める。半重力のＭＯ－Ⅱ内で繰り広げられるＧＰ同士のいざこざを、周囲の兵士は興味深そうに見つめていた。
「煩いっ！」
　デュオの努力を蹴散らし、苛立ちも顕なヒイロが再び歩き出す。慌てて手を伸ばしたデュオの手が肩から首に回り、ぐいっと無理やりに抱き締めた。
「だから、待て・・・・え？！」
　背後から抱き締めたデュオの腕を逆に掴み、ヒイロが見事に背負い投げで飛ばす。もちろんデュオもくるりと回転して威力を殺して着地した。だが、素っ頓狂な声をあげたデュオは呆然と己の手を見ている。舌打ちしたヒイロがいなくなった頃、「嘘だろぉ！？」と絶叫して走り去った。
　休憩用にＧＰ１人に１部屋が宛がわれている。ドロシーに剣で突き刺されたカトルは医務室にいるが、他のメンバーは各々自室で寛いでいた。
　ヒイロとトロワの間にある自室へ飛び込んだデュオが、崩れるように座り込む。へなへなと形容したくなる情けない様でドアを背に座ったまま、まだ温もりと感触が残っている・・気がする手を食い入るように見つめる。握って解いて・・そんな動作を数回繰り返し、「嘘・・・」ぽつりと呟いた。
「だって・・・・アイツ・・」
　あんなに優秀で、スイーパーでトップだったオレが嫉妬するくらい完璧な奴で、無愛想、無表情を絵に描いたような・・・整った顔は確かにキレイだけど・・・・有り得ない。
　紆余曲折した思考が辿り着くのは”嘘だろ”と”有り得ない”の単語だけだった。
　握り締めた手を見つめ、先ほどの感覚を反芻する。
　投げ飛ばされそうになった瞬間、反射的に体が動いた。咄嗟の行動なので、考えるより早く脊髄反射に近いだろう。踏みとどまる為に掴んだ手を動かし握ったのは・・・・。
「嘘だ、ヒイロに胸が・・・だって・・・・」
　そう、男性では有り得ないふくよかな感触だった。乳房を思いっきり握ってしまい、驚いて離したデュオはヒイロに投げ飛ばされたのだ。どうやって着地したのか、ここまでどのルートを通って帰ったのか。まったく覚えていないくらい動揺していた。
「・・・・でも・・・」
　独り言を噛み締める。
　心当たりがないワケでもない。普段タンクトップだったヒイロは、ある時期を境に肌の露出が減った。それは自爆して助かった頃からだ。潜入で制服などを身に纏う機会が多かったので、大して気にしなかったが・・・・ゆったりしたシャツ姿が増えた。
　そして、決して他のメンバーの前で着替えない。シャワーを浴びていても、入れ違いで出て行くことが多かった。協調性がない奴だと思っていたから疑問にも思わなかった行動が、すべて”女性だ”ということを隠す為の工作だとしたら・・・・。
「まんまと騙されてたってワケか・・」
　苦笑いが口元に浮かぶ。
　最初の印象は最悪だった。青いドレスのリリーナを殺そうとしているヒイロを銃で２発も撃ち、挙句に助けた後に相棒のパーツを持ち逃げされるなんて―――デュオの今までのエージェントの経歴を台無しにするような奴だ。だから悔しくて、鼻を明かしてやりたくて追いかけた。
　物騒な死にたがり、でもエージェントとしては最上級ランクのヒイロを”欲しい”と思い始めたのは、アイツが自爆した後だ。助かってたなんて知らなくて、カトルと一緒に行動しながら泣いた。
　死んだだろうヒイロを思うだけで涙が零れて、”ああ、オレはアイツが好きだったんだ”と自覚して・・・でも伝えられない現実に打ちのめされた。
「女・・なら」
　伝えてもいいだろう。
　この想いを洗い浚いぶちまけて、側に居て欲しいと懇願する勇気になる。
　Every cloud has a silver lining.―――幸福と不幸は表裏一体だ。ならばこれを福と転じて、ヒイロへ告白するチャンスにしようと決意した。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

　

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　Every cloud has a silver lining.は、「どの雲も銀の裏打ちを持つ」と訳すそうです。日本で言えば、「禍福（かふく）は糾（あざな）える縄の如し」ってヤツですね。「人間万事塞翁が馬」なんかも近いかも？
　何はともあれ、災いだと思ったら幸福を呼んだり、また逆だったりする状況を示した諺（ことわざ）です。
　今回のデュオはこれに尽きるかも（笑
　ユウキ様、大変お待たせいたしました。ようやく女の子ヒイロの順番です♪
　余談ですが、胸をぎゅっと鷲掴みにされると痕がつくし、結構痛いんですよねぇ（苦笑）　ヒイロはどうしたんでしょう・・・汗；

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・ほら、五飛達のお店は同族が集まる場所なので・・・ということにしておきます。カトル様は最年長の魔王様ですね！　ああ、なんて似合うんでしょう（笑）　日記の1Ｐマガ読みました。いいっすね！　ああいう突っ込み！！　メッチャ好きです♪