W2×1　【MiyabihimeA】

「・・・デュ、オ」
　名を呼ぶ唇を塞いで、呼吸の苦しくなったヒイロがデュオの髪を引っ張る。三つ編みが解けた長い髪が広がり、まるでヒイロを閉じ込めるように纏わりついた。
「はぁ・・・あ・・・・っ」
　ようやく開放されて深呼吸したヒイロの眦に接吻け、薄く笑った口元が再び触れるだけのキスを落とした。物慣れないヒイロの所作に、征服したいとデュオの中の獣が咆哮を上げる。まだ誰の手にも穢されていない美しい獲物を前に、白い牙に舌を這わせた。
「・・・・・血を・・・？」
　吸うのか？　尋ねる声すら吐息に乱れるヒイロが小首を傾げ、僅かに顎を持ち上げる。昨夜の牙傷は薄くピンクに色づいていた。無残な傷痕はない。同じ場所に唇を寄せれば、ヒイロの喉が緊張に強張った。
　意識がない時なら恐怖心もない。だが今日は違った。自分の意思でデュオを受け入れ、彼の物になると頷いたのだ。
「・・・くっ・・・・」
　低く呻いた。ちくりと針を刺したような痛みが走り、後は不思議な酩酊感に支配される。ふわふわと全身が浮いているような・・・地に足がつかない感覚は頼りなくて、反射的にデュオの首に回した手を引き寄せた。
「ぁ・・・っ」
　眠りに誘われる。目を開いて起きたいのにどうしても目が覚めない感覚に近かった。
　デュオの物になると決めた。血を吸って殺されてもいい。命を失う最後の瞬間まで彼の意識が自分に向いていれば、後に何も望まなかった。
　遠ざかる意識を手放し、肌に触れる牙と唇の感触だけが残る。
　がくりと力を失った両腕が重く、デュオの髪を絡ませながらシーツへ滑り落ちた。
｢ヒイロ」
　答えたいのに・・声が出ない。
「ごめんな、きっと後悔させる」
　小さな囁きを否定したかった。しかし、大量に血を失った体は言う事を利かない。何も出来ないもどかしさに涙が滲んだ。
　冷たい指が涙を拭う。
　唇に重ねられた感触と同時に、何かが流れ込んだ。冷たくて・・・芯から凍えてしまいそうな液体が体を満たし、徐々に流し込まれる液体の温度は上がっていく。
　ぴくりと指先が動き、続いて瞼が震えた。まだ唇を合わせたままで恐る恐る目を開くと―――鮮やかな血色が広がっている。僅かに紫の名残を残した赤い瞳は優しくて、怖くはなかった。
　くちゅ・・・水音を残して離れた唇は赤く染まっている。
「デュ・・ォ」
　呼んだ名が遠く聞こえた。口の中を満たしていた液体の味は甘く、唇に残っている赤を舐め取っても足りない。だが、その飢えに近い渇望より優先すべき事があった。
　伝えなくてはならない。孤独に慣れた優しい男に―――。
「後悔、は・・・しな・・ぃ」
　驚いたように目を瞠ったデュオの口元に苦笑が浮かぶ。それから泣き出しそうな顔をして、ヒイロの胸元に抱きついた。まだ仰向けに寝転がったままのヒイロから顔が見えなくなって、ようやくデュオが言葉を発する。
「・・ヒイロ」
　窓の外がほんのり明るくなる。どうやら夜明けが近いらしい。紺が朝焼けに紫へ染まり、徐々に青空へ移行する瞬間が好きだった。
「もう・・朝焼けは見られないのか？」
　吸血鬼になったのだろう。
　確証をもって告げたヒイロに、夜明け色の瞳を持つ男は首を横に振った。
「夏の陽光でも平気だ。おまえは元人間だからな」
　生まれつきの吸血種族でなければ、昼間の太陽は牙を剥かない。そう告げたデュオに、ヒイロは怪訝そうな顔をした。
「お前は無理か？」
「ああ」
　ならば、
「俺も昼間は眠るようにする」
　笑顔でデュオへ告げた。びっくりした顔で長い髪を揺らして首を傾げる様は、数百年に及ぶ長き生を感じさせない。幼い仕草の男へ手を差し伸べた。
　抱き起こした男の首に手を回し、耳元で囁く。
「俺は”お前のモノ”だろう？」
　途端にくすくす笑い出した吸血鬼がヒイロを抱き締め返した。
「・・ああ、そうだったな」
　笑いながら黒髪にキスを降らせ、明るくなった外を一瞥する。ヒイロから明るい日差しを奪い、平穏な人間としての人生を奪い、人類の敵として追われる立場に追い込んだのは自分だ。
　同時に、彼の孤独を癒し自分も癒されて・・・ともに歩くパートナーになったのもデュオ自身。
「一緒に生きていこうぜ」
　美しい顔を覗きこみ、新たな”同族”へウィンクして赤く色づく唇を奪う。絡める舌に必死で応えるヒイロの牙を舌先で撫ぜ、背後のシーツへと倒れこんだ。
「少し眠れ」
　与えた冷たい血が体を巡り、吸血鬼として完全に作り変えられるまで・・・・。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　はい、ここで一旦終了。というか、この後を書くとエロだし（笑
　さて、いかがでしたか？　悪魔か吸血鬼のデュオに襲われるヒイロのリクエストに対し、任務完了！と言える状態でしょうか。
　後日談で、五飛とトロワ出演のもと、何か書きたいな。明日書けると良いんだけど・・・；

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・ヒイロが男前な分だけ、据え膳に対し頑張ったデュオが情けない（笑）　あの五飛が育てたとは思えませんね。ある意味「自分で責任が取れるなら、何をしてもいい」と放置状態なのでしょう。しかも洋館大きそうなのに、１人暮らし・・・きっと五飛に「子供（デュオ）と一つ屋根の下でＨ禁止令」を出されたトロワが引っ越したんだろうな（大笑