W2×1　【MiyabihimeA】

　ここ数日、ずっと同じ夢に悩まされている。見知らぬ森の中を逃げるヒイロの背後から、何かが追いかけて来るのだ。足を縺れさせながら走り、徐々に近付く影が伸ばした手に捕らわれる―――その瞬間に目が覚めた。
　いつも同じ場所から始まり、同じシーンで途切れる。まるで壊れたビデオを再生し続けるように・・・・。恐怖より、気味悪さが先に立った。
　汗ばんだシャツの袖で額の汗を拭う。べっとり背を濡らす冷たいシャツに舌打ちし、立ち上がってシャワーへ向かった。コックを捻ったシャワーが冷たい水を吐き出す。頭から浴びて、少し気分が落ち着いた。
「・・・どうかしてる・・」
　掠れた声で呟く。
　徐々に温くなる水を浴びながら、ヒイロは自嘲の笑みを浮べた。

　思ったより資料の整理が長引き、スーパーで買い物を済ませたのは夜半だった。眠れない日が続いている所為か、集中力が途切れがちなのだ。普段ならあっさり片付ける程度の資料に手間取り、気づけば外は真っ暗だった。作るのも面倒で、夕飯は購入した弁当で済ませることにする。
　外に出て歩き出したヒイロは、物憂げに溜め息を吐いた。
「・・・・疲れた」
　深い意味もなく呟いた愚痴に苦笑いが浮かぶ。そんなヒイロの背後から、ぽんと肩を叩く相手がいた。旧友達は都会へ戻ったし、さして親しい人間が思い至らないヒイロは驚く。
「よ、ヒイロ。今帰りか？」
「・・・・・お前・・」
　長い三つ編みの穂先を指先で弄りながら、青年は人懐こく笑った。笑顔のまま僅かに眉尻を下げ、小首を傾げてみせる。
「忘れちゃった？？」
　無邪気な態度にヒイロの口元が綻ぶ。首を横に振り「デュオ」と名を呼んだ。ヒイロの応えにデュオの笑みが深まる。本当に人懐こい性格らしい。
「良かった。今日も遅いんだな」
　当然のようにヒイロの隣に立ち、歩き出したヒイロへ親しげに話しかける。普段よりゆっくりしたペースで歩きながら、ヒイロは隣の男を盗み見た。
　人懐こい表情と、整った容姿。目立つこと請け合いの三つ編みさえ、彼の明るい雰囲気にとても似合っていた。正直、羨ましいと思う。自分も彼の半分でも人付き合いが上手なら、大学で浮いてしまうこともないだろう。付き合いづらいと倦厭されがちな己の性格を考え、大きな溜め息を吐いた。
「・・疲れてる？　それとも・・オレって鬱陶しい？」
　遠慮がちに問いかけるデュオの沈んだ表情に、ヒイロは慌てる。別にデュオが何か悪いわけではなく、自分で勝手に落ち込んでいただけなのだが、どう説明したらいいのか・・・。
「・・最近、眠りが浅くて・・・それで」
「疲れてるってこと？」
　”鬱陶しい”を否定したい意思を汲み取ってくれたデュオへ、ほっとしたヒイロは無言で頷いた。
「眠れないのは辛いね。何か心配事なら、相談くらい乗れるけど」
　首を傾げて提案するデュオの言葉に、蒼い瞳を見開いて食い入るように見つめる。
「えっと・・・おかしなこと言った？」
　戸惑いを紫藍の瞳に浮べるデュオに、首を横に振る。そこで気づいた。相談できる相手が思いつかない自分・・・・両親が亡くなった後から他人に心を閉ざしていた事実。
「・・・すまない、相談できる相手がいないから・・」
　お前の提案に驚いたんだ。
　口下手なヒイロをフォローするように、デュオは笑顔で手を差し伸べた。
「じゃ、オレがヒイロの親友に立候補するよ」
　まだ２回しか会っていない相手にも関わらず、嬉しいと感じる自分をヒイロは擽ったく受け止める。微笑んでデュオの手を取った。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

　

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　はい、仕事が忙しすぎて・・・ようやくSSをUPできた綾雅です。
　ヒイロさんは着実にデュオの手の内に・・・ああ、可哀想に。でも綾雅は21書きなので、最後は甘く仕上げて見せますとも！　そりゃー、リクエスト通りに！！
　なんか、ヒイロ可哀想っぽい人生送っていますね。デュオがどうやって心を掴むのか。いつ吸血鬼だとばれるのか・・・・何も考えていません；

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・近々襲われてしまうでしょう・・・・。　レスターでぉ、思わぬ失敗。今後はまた鉄格子を挟んでの面会ですね～（笑
　さっちゃん様・・・いかがでしょう？　ご希望通りに最後は甘く仕上げられるよう、頑張りますね♪