W2×1　【MiyabihimeA】

「・・・本当に変わったよね、ヒイロ」
　カトルの視線の先で、舐めるようにして白ワインを飲んでいるヒイロがいる。服用していた薬をやめてから、めっきり酒に弱くなったヒイロの頬は赤く染まり、ご機嫌なのが見て取れた。
「いい傾向だ」
　微笑んだトロワの呟きに、デュオが素直に頷く。
「まぁな、最初は薬をやめさせるのも一苦労だったけど・・・もう必要ない・・」
　女性らしい体になることは”ハンデ”であり、戦いの中で足手纏いになる。任務の遂行が出来なくなることを恐れるヒイロは、戦後になっても成長抑制剤やホルモン剤の常用をやめようとしなかった。戦争が終わったのだとどれだけ説得しても、首を横に振って拒否し続ける。
　頑なな態度を崩したのは、デュオだった。
　何度も折に触れて話し、薬を無理やり取り上げ・・・守られる立場でいて欲しいと懇願し続ける。愛されることに臆病だった心を開いて、ようやくデュオの言葉を聞いてくれるまでに１年もかかったが、無駄ではなかった。
「そうだね、戦争は終わったのだから」
　金髪が月光を弾き、天使のような笑顔でカトルが笑う。普段は人の裏を読んで、作り笑顔を浮べて対応する彼の姿からは、想像も出来ない・・年齢相応の姿だった。
「それで、今度はスカートを穿かせる事に夢中になっているわけか」
　揶揄うトロワの口調に、にやりと口角を持ち上げてグラスを掲げる。視線の高さで揺すった琥珀色の酒を、一気に流し込んだ。
「あの美脚を他人に見せるのは惜しいけど・・・やっぱ自慢したいし。何より似合うしね」
　カウンターの端にあった酒瓶を引き寄せると、手酌でグラスに注いだ。酒の強いトロワとデュオは、ほとんどアルコールの影響は見られない。まるで水のように流し込むザルの２人を他所に、カトルはヒイロと同じ白ワインを口に含んだ。
「確かに、ヒイロは稀に見る美人だよ」
　有名女優やモデル、上流階級の美女達を見慣れたカトルにとっても、ヒイロ程の美女は記憶にない。身内の贔屓目を差し引いても、ヒイロの美しさは最上の部類に入った。整った顔立ちだけでなく、内面の美しさによる輝きだと誰もが知っている。

「・・・貴様、酔っているな？」
　白ワインを飲み干して、まだ手を伸ばすヒイロから瓶を取り上げた五飛が眉を顰める。プリベンターで教官を務め、現役で戦いの場に身を置く男の鋭い視線を気にした様子なく、ヒイロはワインを取り戻そうとさらに手を伸ばした。
「五飛、・・寄越せ・・」
　酔っ払いの戯言と無視する五飛が立ち上がると、むっと唇を尖らせたヒイロが服の裾を引っ張った。
「離せ」
「ワイン・・・」
　会話にならない美人２人の様子に、トロワとデュオが肩を竦める。止めに入ろうと立ち上がったデュオが、目を見開いて駆け寄った。酔いの回った状態で急に動いたヒイロが倒れ、ワイングラスが手から落ちる。
「・・・っぶね・・」
　反射的にヒイロの下に滑り込んで支え、ついでにグラスが砕ける直前に右手で掴む。ヒイロの手が三つ編みを掴み、少し強く引っ張った。
「ヒイロ・・？」
　顔を覗き込めば、三つ編みを掴んだまま眠っている恋人の姿があった。無邪気に両手で髪を抱き締めている様は、ひどく愛らしい。
「・・・どうやらお開きだな」
　トロワの宣言に、一番安心したのは五飛だ。酔っ払いヒイロに絡まれ、ずっと相手をさせられていた。昔の毅然とした姿を知っているだけに、扱いづらいのだ。女性は守るべきものと教えられた五飛だが、自分と同等の強さを持つ女性など想定外だった。
　そんなヒイロを守ると言い切ったデュオに感心してしまう。
「・・・部屋を用意してあります。デュオ、ヒイロは・・」
　一応、未婚女性なので気を使って別室を用意したのだが・・・・・どうやら髪を離しそうもない。赤く染まった顔ですぅすぅと寝息を立てる美女は、微笑みすら浮べるご機嫌ぶりだった。
「離さないと思うぜ」
　苦笑するデュオが、よっと掛け声一つで立ち上がる。結構無理な体勢だったが、なんとかヒイロを抱き上げ直した。
「これが鍵です。２人でどうぞ」
　にっこりと小悪魔の微笑で鍵を渡されたデュオは、背筋に走る嫌な予感に顔を引き攣らせる。
「間違っても！　絶対に！！　襲わないでくださいね。もし何かあったら・・・・」
　そこで言葉を切られることで、報復の想像が膨らむ。ごくりと喉を鳴らしたデュオが、勢いよく首を振った。
「そうですか。ではお願いしますね」
　カトルの「お願い」の形を取った「脅迫」に背を押され、デュオは部屋を後にした。

「脅し過ぎだろう」
　あれではデュオが可哀想だ。呟くトロワの顔はデュオへの同情を浮べているが、同時に抑えきれない苦笑を滲ませていた。
「酔った女に手を出すのはクズだ」
　五飛の正論に、カトルは何も言わずに笑みを深めた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　しっかり脅されるデュオ。据え膳状態のヒイロを前に我慢できるのか？
　そして女の子ヒイロは酒に弱い。今日突然に決まった設定です（笑）

【拍手コメント御礼】　ユウキ様・・・当社比３倍？！　それは凄い！！　嬉しい褒め言葉ですね。きっと着飾ったデュオも喜んでいるでしょう♪