W2×1　【MiyabihimeA】

「陛下、この件の処分は私にお任せください」
「よかろう」
　重々しく頷いたシャルルが席に着くと、誰もが一礼して従った。事実上、この場での話は終わったのだ。デュオが咎められなかったことに安堵したヒイロが、崩れるように椅子に座り込む。
　裾を握ったままの妹が、恐る恐る手を伸ばして傷に触れた。ぴりりと痛んだ傷に身を震わせる。
「お兄様・・・痛みますか？　こんなに血が流れて・・」
　泣き出しそうな声に、安心させる為に微笑む。目が見えていなくても聡い彼女は、すぐに気配を察して安堵の息を吐いた。
「大丈夫だ。もう治りかけている」
　半分嘘だった。彼女に嘘を吐きたくないと願う反面、こうして心配をかけることも嫌で”嘘”の範囲を誤魔化す。気づいているのかも知れないが、素直に頷いた妹の髪を右手で撫でてやった。
　自分とは明らかに違う薄茶の髪が、ふわりと柔らかく指に絡む。
「あっ、デュオさんが・・」
　近付く足音を耳聡く拾った妹の指摘に顔を上げれば、返り血一つ浴びていない騎士が膝をついて傅く。
「我が君、只今戻りました」
　普段は使わない言い回しで、遠まわしに”仇を討った”と告げる騎士へ、どんな言葉を向けて良いか迷った。
「さすがはデュオですね。ヒイロの仇をとってくださり、妹として礼を申し上げます」
　あれだけ殺伐としたシーンを見せられ、けろりと礼を述べる辺り、ユーフェミアは確かに女傑コーネリアの実妹だ。苦笑したデュオも同意見だろう。
「デュオ・マックスウェル―――だったかな」
　問いかける響きを滲ませるシュナイゼルへ、騎士は静かに頭を垂れた。
「はい」
「これからもこの子を頼むよ」
「イエス、ユア　ハイネス」
　皇族への形通りの返答だったが、中に滲んだ決意を感じ取ったのか。兄はくすくす笑い出した。
「第５皇子殿下はどうなりますでしょうか？」
　厳重な処分を求めたいデュオは、物騒な色を浮べた眼差しを隠しもせずにシュナイゼルを見上げる。
「そうだね、皇位剥奪は無理だろうが・・・・」
　そこまで考えていたのか。兄の言い分にヒイロはぞっとする。皇族としての生き方しか知らない者から、皇位剥奪となれば何も残らない。自業自得とは云え、愚かな兄に同情すら浮かんでしまった。
「皇位継承権を失い、幽閉が妥当。彼の騎士は放逐か・・・」
　考えながら話す兄の言葉に、びくりとナナリーの肩が震える。それを抱き寄せて宥めながら、ヒイロは呆れ返った様子で口を挟んだ。
「物騒な話は執務室でしてください。ナナリーが怯えます」
「これはすまなかった、失礼するとしよう。ご機嫌よう・・ナナリー」
　可愛がっている妹の額と頬に親愛のキスを落とし、シュナイゼルは優雅に退いた。
「それにしても強いな、お前は。是非手合わせを願いたいものだ」
　感心したようにデュオの肩を叩いた手は、コーネリアのものだった。赤が強い紫の瞳が好戦的に煌き、続いて飛びついた実妹を受け止めて笑う。
「お姉様！」
「ユフィ・・次はギルフォードの試合だ。応援してやってくれ」
「はい！　では、失礼いたしますわね。あとでお茶でもご一緒に♪」　
　浮かれた様子で甘えながら出て行く姉妹を見送り、苦笑したヒイロが手を差し伸べる。キスを受ける右手の甲ではない。血が伝う左手を下から掬い上げた騎士は、恭しく手のひらに唇を押し当てた。流れる血を受けて、彼の唇が赤く染まる。
「すぐに手当てをいたしましょう、殿下」
「もう誰もいない。ヒイロでいい」
　ぶっきらぼうな兄の言い草に甘えを感じ取り、ナナリーがくすくす偲び笑う。
「試合が終わったら、シュナイゼルお兄様やユーフェミアお姉様、コーネリアお姉様も誘って、離宮でお茶でも飲みましょう」
　妹の提案に否やがある筈もなく、ヒイロは微笑んで頷いた。

　数日後。
　アリエス離宮が誇る薔薇園は、歓談のざわめきに揺れていた。高貴な芳香を漂わせる庭は、皇位継承権上位の兄や姉妹にも評判がいい。離宮の主であるヒイロを可愛がってくれる面々を前に、デュオは僅かに控えた位置で給仕をしていた。
　差し出す紅茶は薫り高く、極上の味で客をもてなす。
「デュオ、貴方も座って」
　ユーフェミアの誘いに、苦笑して一度は辞退する。しかしコーネリアやシュナイゼルも首肯するにいたって、ヒイロの隣に落ち着いた。
「お父様がデュオを褒めていたわ」
「そうだな。確かに気に入ったと言っていた」
　ＥＵの小競り合い鎮圧に赴く予定のコーネリアは、妹と一緒に皇帝に拝謁したようだ。
「お兄様・・では、お父様にデュオを取られないようにしなくては」
　くすくす笑いながらナナリーに揶揄われ、少し頬を赤らめたヒイロが紅茶を口に運ぶ。和やかな雰囲気が漂うお茶会は、その後・・・夕暮れの冷たい風に中断されるまで、心地よい時間を演出し続けた。
　独占欲の強い騎士の手が、机の下で主の左手を握っていたことは―――薔薇の下の秘密。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ＮＥＸＴ.... ？

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　うん、もう何もいえない。ヒイロが滅茶苦茶ニセモノで・・・。
　でもルルーシュ＠ヒイロだと、どうしてもルルーシュの性格が強く出るみたいです。私の歪んだ視線で見たルルーシュだから、なんとも可愛い（爆笑）　うちのヒイロとはえらく違います。その分スザクは鬼畜系だと思っていたので、デュオにぴったり。恋人にベタ惚れで”死神”なとこもそっくり！！
　匿名希望Ｈ様・・・返品は不可です！（苦笑）