W2×1　【MiyabihimeA】

　闇帝は自ら創造した”世界”を、予定調和によって再構築した。消滅した光皇の霊力を分散し、神族を作り上げたのは、光皇を復活させる為に必要なパーツを失わぬ為の布石に過ぎない。そして自らの魔力を４つに分けて、未来に甦る手段を講じた。
　闇帝の記憶を封じた”月の鏡”、性情を託した”鈴風の矢”、魂の中核を成す”真紅の百合”―――最後のパーツが、姿形を模した”器”。すべてを揃え、デスサイズにより組み上げることで・・・・闇帝は完全なる復活を遂げるのだ。
「では・・・」
「もう遅い」
　デュオは喪われ戻らないだろう。《予定調和》は実行され、完結し、闇帝と光皇が君臨する世が再び始まる。ぐしゃりと短い髪を握ったレイルが、小さく断言した。

≪本当に・・・私の意向を無視してくれる・・≫
　長い黒髪を揺らして首を横に振り、呆れたと表情で語る美人が足を踏み出す。整った顔は僅かに青ざめているが、白い翼を優雅に広げて毅然と前を向く。蒼く透明な眼差しの先で、死神デュオがゆらりと身を起こした。
　否、すでにこれはデュオではない。
≪・・長かった≫
　呟いた声はデュオと同じ、しかし言葉を発した男は死神と呼ばれた魔物ではなかった。さらりと風に浚われて散る塵は、元が闇帝の姿を成していたモノだ。過去から強引に空間を繋いだ為に崩れてしまった以前の体を感慨なく見送り、闇帝は新たに得たデュオの器で微笑んだ。
　広げた翼から傷が癒え、胸についていた爪傷が塞がる。血に汚れていた黒衣は赤を落とし、肌についた汚れも一瞬で消えた。
　デュオと闇帝の唯一の違い、足元まで届く髪色が金色に変わっていく。完全に融合した器で、愛しい存在へ手を伸ばす。　
　数億年もの長い年月、恋焦がれてきた光皇の頬へ指を這わせ、満足げに吐息を漏らした。
≪やっと・・・・≫
≪触れるな≫
　闇帝の手を払い除けた光皇は、心底気に入らないと眉を顰める。白翼を数度羽ばたかせた仕草に、苛立ちが滲んでいた。蒼い瞳が険を帯びて細められる。
≪私が消滅を選んだのは、この”世界”が愛しいからだ。自ら望んで眠った者を無理やり起こすのは、感心しない≫
　古代神語が澄んだ音で響く。
≪お前が作った”世界”は脆くて、壊れやすい。その儚さが好ましく愛おしいからこそ、大切に育んできた≫
　世界の核を創ることが出来るのは闇帝のみ、生まれた核を育てられるのは光皇の霊力だけが為し得る。どちらが欠けても世界は生まれず、育たず、存在しなかっただろう。
≪お前が無から有を生む代償として、私は有を無に帰してしまう≫
　世界を育てる霊力は無限ではなく、常に循環し続けるのだ。光皇が喜んでくれるからと次々にモノを生み出す闇帝の陰で、失われる命やモノが発生し続ける矛盾が、光皇を苦しめてきた。
≪私はもう、何も失いたくない≫
　失わずに済む方法を考えた結果が、己の消滅だった。世界に自らを溶かしてしまえば、世界が滅びる心配もない。闇帝ももう何かを生み出すことはしない。すべてが円く収まると思っていた光皇だが、闇帝の己に対する執着を読み誤っていた。
≪・・・そなたの願いを叶えることで、我が望みは断たれる≫
　傲慢に振舞ってきた闇帝が、哀しそうに呟いた。彼だとて、何も理解していなかった訳ではない。光皇が自ら消滅した理由を探る方法も時間も、彼には持て余すほどあったのだから・・・。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　光皇って、結構冷たい（苦笑）　世界を代償にしてまで求められて、あっさり「触るな」って・・・・可哀想だよ、闇帝が。さすがに闇帝もがっくり来てますね。
　この辺りがデヒと違う部分かも・・・・。もしかしたら、ヒイロがデュオに見向きもしない子だったら、同じような結論になる気がします。光皇と闇帝に関しては、デュオやヒイロとまったくの別人として作ったのに（笑）