W2×1　【MiyabihimeA】

「これはどうする？」
　レイルの声に顔を上げて立ち上がり、血が染みた黒衣を捌いて足を踏み出す。右手に”真紅の百合”を持ち、ちらりと背後のデスサイズを見やった。
「封印するしかないか」
「その程度で大丈夫か、何しろ・・」
「闇帝絡みだって言うんだろ。でも壊せないんだから、しょうがないさ」
　そう、デュオの言う通りだった。壊すことは物理的に不可能なのだ。闇帝と光皇が作り上げた世界の中核を担う神器は、魔王達が自らの身に封印するものだ。開放された以上、別の依代（よりしろ）を探して再び封印するしか方法は残されていなかった。
「・・・・ですが、すべてを封印するには依代が足りないのではありませんか」
　シフェルの指摘は最もだった。
　魔王ほどの魔力を以ってしても、１人１つしか封印できなかった。その神器を３つ引き受けられる存在はない。
「デスサイズを依代に２つ、残りはオレが封じる」
　己の身の内に封じてみせると笑ったデュオに、サリファとシフェルが顔を見合わせた。確かに、魔力だけなら十分すぎる資格を持っている器だ。しかし、デュオは神族とのハーフだった。霊力を併せ持つデュオが封印し続ける負担に耐えられるか、誰も答えは持っていない。
「危険では？」
「誰が封印したって危険さ」
　けろっと切り返す。
　死神の決意が固いことは、誰の目にも明らかだった。
「デュオ・・」
　不安そうなヒイロの呼びかけに、満面の笑みでデュオが「大丈夫」と返す。
「大体、他に出来る奴いないだろ」
　魔王に匹敵する魔力を持つといわれるシフェルだが、それは強大な魔力を揶揄する表現に過ぎない。上級魔性よりは上だが、魔王達と対等に戦うには魔力が不安定過ぎた。炎を司るだけあって、僅かな風に揺らがされる魔力では封じにならない。
　サリファは問題外、傍観者である２人にも不可能だった。
　ならば・・・残るのは確かにデュオ１人だけ。
「俺には無理か？」
　突然の提案に、全員の視線がヒイロへ向かう。驚愕を顕にする魔物やミカエルと、どこか面白がる雰囲気を見せたレイル、青ざめたデュオが一斉に口を開いた。
「やめてください！ヒイロさん」
「そうですよ」
「案外、イケるかも・・・」
「黙れ、レイル！　ダメだ、絶対に認められない」
　旧友の意見を遮り、デュオが縋るようにしてヒイロに抱きつく。きょとんと小首を傾げるヒイロは、何を反対されているのか理解していないようだった。能力的に可能ならば、引き受けるつもりでいたのだろう。
　己の損得ではなく、世界全体の利益を考えて動く。他人を優先して、己の安全すらないがしろにしてしまうのが”天使”の心を持つ存在だと知りながらも、デュオは恐怖に小さく身を震わせた。
　想像するのも恐ろしい。
　魔王が封じなければならぬ程の力溢れる神器を、人間であった器に流し込んで変質してしまえば、もう取り返しはつかないのだ。ヒイロが消えてしまう可能性もあった。
「人格が破壊される怖れもある」
「・・・・そう、か」
　危険さをアピールしたデュオの取り乱し振りに、戸惑いながらヒイロは素直に引く。ほっとしながら、黒髪に縁取られた頬へ手を滑らせた。
「依代はオレとデスで足りるよ」
「お前に危険はないのだろうな」
　デュオの身を案じてくれる優しい主へ、笑顔で頷いた。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　あらら・・・開放した直後に封印ですか。しかもヒイロさん、お人好し過ぎ（笑）　ついでに、デュオは心配しすぎ（爆笑）
　デスサイズは本当に無口で、大人しい良い子ですね。デュオにいいように使われていますが、彼の本領発揮はこれからです？！