W2×1　【MiyabihimeA】

　トロワを失った五飛の辛さは押して知るべし。最愛の人を得たデュオにも想像はついた。だが・・否、だからこそ戦いたくない。
　地に届く長さの黒衣をふわりと揺らし、死神は紫藍の瞳を細めた。膝を超える長さの髪を掻き上げ、物憂げに溜め息を吐く。
「当然だ」
　即答した五飛の声に滲むのは、己の消滅をかけた覚悟だった。
　一度こうと決めたら覆さない頑固な青年の性格を思い出し、デュオは僅かに視線を伏せた。足元に広がる緑は、五飛に力を貸すだろう。
　大地の懐は広く、分け隔てなく優しい。その分だけ、大地が下す審判は厳しいものがあった。自然の穏やかさと厳しさを体言する五飛の性情は、今の状況で退くことを許さない。
「・・・デュオ」
　後ろから声を掛けた旧友に、顔だけで振り返る。長い髪が風に煽られ、視界を遮りながら広がった。無造作に右手で掻き上げたデュオの手が止まる。
　レイルの右手に握られているのは、”鈴風の矢”と呼ばれる世界の至宝―――鮮やかな緑は失われた人の瞳の色と同じだった。銀の装飾が伝う矢に目を細め、デュオが舌打ちする。
「”嘆きの泉”へ行ったのか・・」
「これはおれが預かる」
　２人のやり取りを見ていた五飛が、右手に三日月形の青龍刀を召還する。切っ先を突きつけるように水平に構え、宣言した。
「俺が勝てば、その矢を貰う」
　トロワの命を代償として還ったなら、確かに五飛の隣に在りたいと願うだろう。静かに頷いたデュオが翼を広げた。漆黒の６枚が大きな影を作り、ヒイロはゆっくり後ろへ下がる。
「シフェル、サリファ・・・主（マスター）を命に代えて守れ」
　命じた瞬間に顕現した魔物２人は無言で頷いた。一瞬で張り巡らされる結界が彼らを覆う。
　ばさりと翼が羽ばたいた瞬間、五飛とデュオが動いた。速さを生かして距離を縮めたデュオが、左手にデスサイズを握り締める。いつ切り裂いたのか、左手から僅かに血が滴っていた。召還の代償としたのだろう。
　振り翳した刃を下ろした先で、五飛は平然と受け流した。優に２ｍを超える鎌の重さと長い刃を、己の青龍刀の背で滑らせる。真っ向から力を受けずに流す技は、さすが五飛とデュオも素直に感嘆した。
　一度飛び退って距離を置き、再び仕掛ける。何度か打ち合った刃が離れて、今度は五飛から距離を詰めた。己より長い得物を持つ死神の懐に入り込み、下から上に刃を返して払う。咄嗟に身を捩り、鼻先を掠めた刃をやり過ごしたデュオが、にやりと口元を歪めた。
　命をやり取りする緊迫した空気を楽しんでいるのだろう。
「なるほど・・デュオも考えたな」
　勝手に結界に入り込んでいたレイルが呟く。怪訝そうな表情のミカエルとヒイロが顔を見合わせ、レイルへ説明を求める視線を送った。
「魔王である五飛と、死神デュオの戦いだぞ。互いに魔力や霊力を使ったら、周囲は壊滅的な状態になる。それを防ぐ為に、接近戦を仕掛けたんだ。五飛は真っ直ぐだから、挑戦されれば同じ土俵で受けて立つ・・・性格を読んだ上での作戦だろうな」
　デスサイズと青龍刀が散らす火花は、持ち主の魔力を孕んで空気を焼き、大地を揺るがす。それでも、魔力同士を直接ぶつけ合う戦いより被害は少なかった。
　はらりと散ったブラウンの髪が、青龍刀に切られて舞う。長い黒衣を捌いて戦うデュオの足元に、血が滴って赤く染まった。
「・・デュオっ！？」
　叫んだヒイロが飛び出そうとするのを、シフェルが右腕を掴んで引き止めた。
「危険です」
「でも・・っ」
　また血が落ちる。黒い色が分かりづらくしているが、どうやら翼から滴る血らしい。刃が掠めたのだろう、１枚だけ羽が濡れていた。
　ザシュ―――銀色の刃が貫く鈍い音がする。黒い羽根が舞い散り、誰かの絶叫が響いた。それを遠く聞きながら、右腕を掴まれたまま・・・ヒイロはぺたりと座り込む。目に焼きついた赤と黒の映像が恐ろしくて、見開いた蒼い瞳をゆっくり伏せた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ああ、五飛がついに動き出してしまったぁ・・・・。一番まともな魔王様なのに・・・デュオと戦う羽目になってしまい、しかも引くに引けない。これは行くとこまで行くしかないでしょう。頑張れ、五飛！！　←誰のファンなのよ、アンタ；

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・だいぶ前のコメント返しですが・・・；　ツンデレヒイロは、それでもデュオを助けようと合成しちゃったわけですよ。でも時間がないので最終チェックを怠った・・良かったね、通用して（笑）冷静に女学生に指摘されたりしたら、目も当てられません。使い魔シリーズは、本当にデュオが暴走しまくっています。闇帝しかりデュオしかり、ちゃんと他人の意見を聞いたりしようね？ってカンジ。鈴風の矢はトロワの旦那なので、真紅の百合になる五飛もキレイだろうなぁ。うん、見たいけど・・・見たくないような複雑な気分です。ユイ猫は、相変わらず毎日悶えています♪