W2×1　【MiyabihimeA】

　何はともあれ、この風景自体はすでに城で見慣れたもので、別段驚くには値しない。何を驚いているかと言えば、魔王の周囲に侍る四天王の顔ぶれだった。
「あの・・・・アスタロト様は・・」
　恐る恐る問いかける貴族が、魔王デュオの冷たい視線に「ひっ」と息を呑んで首を竦める。
「アスタロト？　知らん」
　お気に入りだった筈の上位貴族をあっさり切り捨てる。だが、その言葉に反応した者がいた。魔王の腕の中でお菓子を手に満足そうに微笑んでいた天使である。
　きょろきょろと周囲を見回し、確かにブロンズ色の青年の姿が見えないことに驚きで目を瞠った。正直・・・今更、である。
「デュオ、デュオ」
　気を引く為に黒衣の袖を引っ張ったヒイロへ、デュオは穏やかな笑みを向ける。先ほどの般若の表情とは正反対だ。自分だけに向けられている微笑だと知らないヒイロが、無邪気に問いかけた。
「シフェルは？」
「・・・・・」
　さすがに伴侶で恋人のヒイロに嘘は吐けない。行方を知っているから”知らない”と言えず、どう誤魔化そうか考えて、とりあえず新しいお菓子を与えてみる。それで気が逸れてくれたら・・・と淡い期待を抱いたデュオへ、増えたお菓子を口にしながら残酷に続けた。
「紅茶を淹れて欲しい。シフェルは？」
　はぁ・・・盛大な溜め息をついて、デュオは頭を抱えた。
「とりあえず、部屋に行かない？」
　こくんと頷いたヒイロが、またお菓子を口に放り込む。主食がお菓子といっても過言でないほど、ヒイロは甘い菓子が好きだ。そのほとんどはデュオかシフェルの手作りである。そういった意味でも、香り高いお茶を淹れて美味しいお菓子を作り、給仕してくれる彼の存在はヒイロの中で大きかった。
　さっさとヒイロを抱き上げて退散する魔王を見送り、ジャックが呟く。
「尻に轢かれてるなぁ・・・」
「今更でしょう」
　あっさり切り捨てたベールの冷めた物言いに、誰も反論できなかった。

「シフェルのお茶・・・」
　デュオは質問に答えてくれないし、お気に入りの給仕係（・・結構ヒイロも酷い）は顔を見せない。半分泣きたい気分で呟けば、ソファの上に下ろされて額に唇が触れた。
　普段は傅かれる立場の魔王が膝をついて、下から覗き込む。唇を尖らせて不満を表現する恋人へ、触れるだけのキスを贈った。
「シフェルは、しばらく出掛けてる」
「どこへ？」
　すかさず問い返すのは、ヒイロの精神年齢が子供に近いからだろう。生まれてから僅か５０年、人間で言えば６歳前後なのだ。
「・・・・どこだろうな・・」
「知らないのか？」
　ここでまた言葉に詰まる。知らないのではなく、知ろうとしないだけだ。怒り心頭で出て行ったシフェルを思い浮かべ、がっくりと肩を落とした。
「・・・すぐに呼び戻すから、待っててくれる？」
「でも、お茶・・」
「オレが淹れたので我慢して」
　さすがにデュオの項垂れた様子が気の毒になったのか、ヒイロも素直に頷いて口を噤んだ。どうも自分がシフェルに関する事を尋ねると、デュオが落ち込む気がする・・・。
　理由が分からないなりに、ヒイロは気を使ってお菓子を口に放る。お気に入りのミルクティーが飲めるまで、あと３分だった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　たっくん様、大変お待たせしました。やっと書き始めです（苦笑）
　なんか、このシリーズのヒイロって脳みそが足りない気がするよ・・・・汗；
　・・・情けないことに腰が痛い・・・。

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・五飛の秘密は次回に持ち越し。今回は書いてたら、他のシリーズが置き去りにされてしまう（笑）　しかも今、新刊関係で忙しいしね。デュオは美味しくヒイロをいただけたのでしょうか？？？