W2×1　【MiyabihimeA】

「・・都合のいい嘆願だな」
　隣国オズからの要請を鼻で笑う。幼い外見に似合わぬ優秀な頭脳と政治の才を誇る国王が、ひらりと書類を１枚捨てた。
「一応”親書”ですよ・・」
　足元に落ちたそれを拾い上げ、デュオが溜め息をついた。すでに目を通した書類に何が書かれているか、思い出すまでもなく浮かんでくる。親書を送った相手を敬う気もないくせに、心にもないことを吐き出す唇を、ヒイロが睨んで溜め息をついた。
　―――２年ほど前、この国はオズに攻め込まれた。国境を越えた侵略者達は田畑を荒らし、罪もない民の命を奪ったのだ。騎士としてデュオが出向き、軍を指揮して敵を退けたばかりだというのに・・・・。彼らは恥知らずにも、この国に援助を要請した。
　理由は、まったく降らない雨による旱魃（かんばつ）だ。大きな山脈によって両国の国境は保たれている。そして、その山脈が両国の運命を分けた。水分を含む海風は山脈で冷えて、雨となって落ちる。今まではそれが隣国オズにも降り注いでいた。
　しかし、数年前から雨の量は減る一方だ。灌漑設備を国策として命じた国王の英断で、この国は乾かずに済んでいた。
「雨が減っているのは事実だが、手を講じなかった奴らが悪い」
　雨の量が減ったのはどちらの国も同じ。どんな手を打って雨水を確保し、均等に配分できるかが政治を司る国王の力だった。
「どうされますか？」
　執政としての顔でしれっと尋ねるデュオを上目遣いに見つめ、少年は口角を持ち上げた。
「助ける理由がない」
　未だ失われた家族の命を悼む民の心の傷も、踏み躙られた大地も癒えていない。傷つけられた痛みを消化できていないこの国が、加害者であるオズを助けるのは”お人好し”過ぎるだろう。含まれた意味を間違いなく読み取り、三つ編みの青年がくつりと喉を震わせて笑った。
「結構辛辣だな、ヒイロ」
　言葉遣いが普段のデュオに戻る。
「お前もだ」
　肩を竦めて賛否を交わしたデュオだが、最初からオズを助ける気などない。隣国の国王の親書であった為、一応目を通してもらったに過ぎなかった。その証拠に、すでに書面に大きな×が記されている。
「それと・・・これは今日届いたんだけど？」
　くすくす笑いながら、さらに親書を胸元から取り出す。どうやら、ヒイロの反応次第では捨てられる運命にあったらしい。デュオは常にヒイロ優先で動く為、国王に害が及ぶと考える書面や人物を勝手に処分することも少なくなかった。
　目を通したヒイロが眉を顰め、書類を丸めて放り出す。
「くだらない」
「確かに・・」
　同意したデュオの手が、床の上でゴミになった親書を拾い上げた。
　なりふり構っていられないのだろう。娘である皇女をヒイロに嫁がせたいと書かれていた。だが「正妃に」という文章がない。つまり金を引き出せるなら、別に夜姫であっても構わないと考えたのだ。国の為とは言え、売られる皇女がひどく哀れになる。
「急ぎの案件は？」
「これと、これ・・・あとはオレが処理した」
　頼もしい側近の言葉に、静かに頷いたヒイロが新たな書類へ目を向けた。俯き加減の艶やかな黒髪に光が当たって、僅かに緑がかって見える。デュオはその髪色がとても好きだった。初めて見た時から触れたかった髪に手を伸ばし、何度も感じた柔らかい感触に目を細める。
「デュオ・・・」
　突然髪に触れたデュオの行動は、国王に対する不敬罪に当たる。近くに親衛隊や貴族が居れば、大騒ぎになっただろう。だが当のヒイロに咎める気はまったくなかった。逆に、もっと触れて欲しいのだと手に擦り寄る。甘える仕草にくすくす笑うデュオの腕が、ヒイロの細い肩に回された。
「・・・・どうした？　何か気になってるんだろ？」
　促す態度は子供をあやす様で気に入らなかったが、ヒイロは素直に口を開いた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　おほほ・・・オズが嫌な国になってますね。後日、また出てくる予定なのでちゃんと覚えておいてくださいませ。ところで皇女って誰？？？←決めてないのよ；
　ちなみに舞踏会から、一緒に眠って起きた時まで、ずっとヒイロは言いたいことを飲み込んでいました。しっかり読み取るデュオ！　さすが愛の力ね♪
　ここ数日忙しすぎて、まったくパソコン作業が出来ませんでした。今日も仕事が終わってから、自宅でこっそりと打っています。昨日まで数日、帰宅が夜２時近かったので、さすがに無理でした。でも時間見つけて頑張りますので、少しばかり気長にお待ちください。

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・セレブになりきれないというより、セレブになったらデュオじゃない！！（笑）　揺籃に出てたシフェルの彼女は・・・確か、別の話で出てきましたよ。えっと・・・金髪で最初はデュオに言い寄ったクリスティンちゃん♪　もう少しヒイロがツンデレな話を書きたいので、今回のとは別に本を出せたらいいな・・・と。あまりにヒイロがデュオに甘くて、正直、消化不良状態です（苦笑）　感想いただき、ありがとうございました。今回は最後まで文字化けもなく、きちんと読めましたよ♪
　asaasaちゃん・・・新刊の感想ありがとうです。でもあまりに辛辣なので、ぐさりと痛い（苦笑）そうなのよ、ヒイロが冷たくなり切れなくて・・・・でも次は頑張ります！！！
　美代様・・・先日のゲスト原稿、大丈夫だったでしょうか？　あんなんが私の現在の精一杯です。申し訳ないです。しっかり感想とイラストいただいてしまい・・大事にします♪