W2×1　【MiyabihimeA】

　しかし、舞踏会は毎月の恒例行事だ。
　代々受け継がれた慣習を、国王とはいえヒイロ１人の独断で中止することは難しかった。駆け引きと互いの立場の確認、下らないと嘲笑するのは簡単だ。だが貴族達にとっては、一大事なのだろう。それ故に、鬱陶しい挨拶を受けるだけの場でも顔を出すのだ。
「国王陛下、ご機嫌麗しゅう・・」
「スタンリー伯爵」
　名を呼んで、長くなりそうな美辞麗句を遮る。どうせ挨拶程度の内容しかないのだ。無駄な時間を省く声は、退屈そうに響いた。
「隣のレディは？」
「私の姪で、サリューと申します」
　先月は金髪の娘を連れていた。なかなかに整った顔をしていたが、ヒイロが興味を示さないので、別の娘を連れ出したのだろう。
　姪と言ったが、本当に血の繋がりがあるのか・・・怪しいものだ。何しろ、貴族社会では綺麗な娘を養女として育て、政略結婚に利用することが平然と罷り通っていた。
　どこの誰の子であろうと、喩え奴隷階級の子でも、美しければ利用価値がある。養女という肩書きで、自分のレーベルを貼り付けて婚姻関係を結ぶ様は、醜く腐り切った貴族社会に相応しいのかも知れない。その為、貴族といっても奴隷の親を持つ者もいたくらいだ。
　栗毛の少女は赤く頬を染めて俯いている。その瞳は空色で、確かに美しい外見をしていた。
「レディ・サリュー。パーティーを楽しまれるといいでしょう」
　そんな社交辞令で踵を返す。
　背後に１歩下がって控える青年も一礼し、主に従った。剣を腰のベルトに下げるのは正装の時だけだ。騎士のような姿は、黒を基調に一部に銀糸の刺繍をあしらった豪華なものだった。
　背で揺れる長いブラウンの三つ編みは腰まで届く。青紫の珍しい色の瞳が細められ、整った顔に苦笑が浮かんだ。
「デュオ・・・疲れた」
　数段高い場所に設えられた玉座に落ち着き、ふぅと大きな息をついて肩を落とす。まだ１５歳の国王の綺麗な顔が顰められた。白い肌を縁取る艶やかな黒髪、王冠の中央で輝くサファイヤより鮮やかな蒼瞳、女性より美しい顔（かんばせ）は、周囲の感嘆の溜め息を呼んだ。
「陛下、本日はもう休まれますか？」
「ああ」
　その一言がすべてだった。
　国王たるヒイロの退席を、誰もが頭を垂れて見送る。ダンスの楽曲を奏でていた楽師達も、国歌を演奏して敬意を表した。
　廊下に出るなり、頭の上で重さだけを主張する王冠を外し、ぽんと背後へ投げ捨てる。慣れているデュオがあっさり受け止め、先を歩くヒイロに追いついた。本来なら国王たるヒイロに肩を並べて歩くなど、不敬罪に問われる愚挙だ。しかしヒイロは足を止めて両腕を彼へ伸ばした。
　抱き上げろと無言で願う幼い主を、デュオの腕が抱き上げる。
　細い腰に左手を回し、右手でヒイロの膝裏を支えた。横抱きにしがみ付くヒイロの腕が、悪戯に三つ編みを掴んで弄り始める。
「陛下、髪は・・・・・遅かったですね」
　廊下に付き添う親衛隊がぎょっとした顔で、執政たるデュオを見送る。今の言葉遣いは国王に対するには、あまりにフランクだった。本来許される筈がなく、極刑に処せられるのは確実だ。だが、彼は気にした様子がなかった。そして声を掛けられた国王ヒイロも同様だ。
「・・・もう解いてしまった・・」
　拗ねた口調で告げるから、苦笑したデュオが主の顔を見上げる。
「なら、手で掴んでいて下さい・・」
「どうしてだ？」
　小首を傾げる仕草は幼くて、ひどく可愛らしい。年齢相応に育つ余裕があれば、本来ヒイロは子供として親に甘えていられる年齢だった。
「髪を解いた姿を見せるのは、ヒイロだけだから」
　声を顰めて告げられ、少し赤い頬を隠すように抱きついたヒイロだが、ブラウンの髪束を掴んだ手は離さなかった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　うわ～ん！　なんか、久々すぎて、難しい！！！
　通販をお申込みいただいた方、4/10時点で入金確認が取れている方に関してはすべて発送しました。到着をお待ちください♪　と通販部から連絡がありました（苦笑

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・壮大なファンタジー！　まさしくこの単語が似合いますが・・・・ここまで大げさな話になる予定はなくて、ただデュオがヒイロに跪いて誓ってくれたら良かったの（笑　　五飛はかわいいものが好きなんだよ、ついでに甘党なんだよ（大笑　使い魔は結構キャストが多くて、気づけばドロシーを忘れておりました。まあ、黒幕に近いからなぁ・・・魔女だし（苦笑