W2×1　【MiyabihimeA】

　すべては闇帝による《予定調和》―――目覚めさせられる彼の心を考えるより、自らの欲望に忠実に動き、己の心が欲するままに”世界”を崩壊させる。
　残酷で、無慈悲で、どこまでも幼い精神。創造主たる彼にとって、愛しい『**』以外は何も価値を持たないのだろう。
　何でも作り出すことが可能な能力は、闇帝から欲を奪った。
　欲しいものがない彼を執着させ、唯一欲望を抱かせた存在が―――『**』だったのだ。自ら創造した者ではなく、支配すべきモノしかない世界の中で”支配できない者”として位置づけられた『**』が喪われた。喚び戻そうとする闇帝の行動は当然でもある。
　母親を求める幼子のように・・・・純粋で、どこまでも我が侭な感情に従うだけ。
　かつての片割れとよく似た面差しのデュオの前髪を梳いてやり、小さく溜め息をついた。
「負担が大きすぎる・・・これでは器が保たない」
　さらりと黒髪が肩を滑る。優しく触れる風の精霊に手を差し伸べ、甦りつつある緑へ視線をめぐらせた。
「手伝ってくれ・・・」
　彼の一言で十分だった。神族に従う運命を持つ精霊達は、静かにヒイロの中に顕現した彼の意に従う。額の汗を指先で拭ってやる行為に、水の精霊が寄り添った。ひやり冷たい感触にデュオが身じろぐ。
　僅かに開いた紫藍の瞳へ、微笑むヒイロが映る。慈愛と称するのが相応しい、穏やかで柔らかい微笑みが近付き、艶やかな唇が重なった。流れ込む清涼な気に、体内から癒されていくのを感じる。
　背の翼から流れ込む熱が消え、体が軽くなった気がした。
　外見は何も変化がない。
　３対６枚の黒い翼はそのまま、足元まで伸びた淡いブラウンの髪と月光に闇を溶かした紫藍の瞳。白い肌に至るまで、封印を開放した本性のデュオだった。にもかかわらず、死神を苦しめた魔力と霊力の暴走が止まっている。整えられた流れは血の巡りに乗り、鼓動に従って大人しく体内を循環していた。
　制御できない巨大な魔力と霊力は、デュオの身を滅ぼしてしまう。シフェルが封印の解除を躊躇った理由はそこにあった。それ故の封印であったというのに、解除された状態でも身を苛む熱がない。
「・・・・ヒイロ？」
　白い翼を広げ、長い黒髪を風に遊ばせる姿は人間離れしている。確かに”人間”ではないのだけれど、まるで幻影のように頼りなく思われた。
　慌ててヒイロの腰に手を回し、ぎゅっと抱き着いた。
「大丈夫だ。”お前のヒイロ”を還そう」
　はっと目を瞠った瞬間、ヒイロが崩れ落ちる。正座した状態でデュオを抱き寄せていた体が倒れ込むのを、身を起こしたデュオが受け止めた。
　軽い体を逃がさないように抱き締めながら、緑の甦った大地に座り込む。
「愛してる、ユイ」
　囁いた声は掠れて震えていた。
　長い黒髪に指を絡ませ、尖った耳の先に触れる。今までの姿とは違ってしまったが、それでもヒイロはヒイロだった。どこまでも純粋で美しい魂、それに見合う姿形を持った”天使”だ。
　戦いの傷が癒えた大地に、暖かな陽射しが降り注ぐ。風が揺れて、生まれたての小さな花や命を祝福するように撫ぜた。
「何が起きても―――守ってみせる」
　誓いは”世界”が聞き届けた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　NEXT....

---

　まあ、なんとか一段落。そして結局ミューナは五飛さん関連でした。ちらりと書いたんだよ？　ミューナが消えた直後に、五飛の手元に光が戻ったでしょう？　あれとか、匂わせた一部です（笑
　今後は目覚めた光皇さん内蔵（設備みたい；）ヒイロと、闇帝の片割れデュオが、ついに最終決戦で終了。そこの部分は追々書くつもりですが、もう先は長くありません！　←死亡間近みたいで、ちょっと表現的にどうだろう、自分（反省；

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・まず、通販ありがとうございます。サリファはシフェルに押し倒されてたり・・・しないだろうな（苦笑）　五飛は僅かにケガしましたが、大半の攻撃は旦那が防いでいます。そりゃそうでしょ、それがトロワの価値だもん（←酷い）