W2×1　【MiyabihimeA】

「だいぶコツが掴めた」
「・・・・でも、飛ぶのは危ないと思うぜ」
「そうか？」
　きょとんと首を傾げて尋ねる姿が愛しい反面、差し出した両手に触れるヒイロの温もりを引き寄せたくなる。己の衝動に素直に従い、腕の中に、華奢な体を抱き留めた。
「はい、今日はおしまい」
　頷いたヒイロの前に用意したお茶のセットは、サリファとシフェルが持ち込んだものだ。木陰に置かれたテーブルセットは柔らかい木目で、どこか温もりを感じさせた。
　心配そうな顔で待つシフェルと、目を輝かせて手を叩くサリファが勧めるまま、翼を畳んで椅子に座る。しかし、背凭れが気になって振り返った。
「ヒイロ、こうやって・・・ほら、楽だろ？」
　少し引っ張って翼を広げさせて、うまく逃がしてやる。デュオの手が直してくれた位置で、白い羽を落ち着かせて休めた。
「本当に真っ白ですね」
　抜け落ちた羽根を手に、シフェルが目を細める。滅びた神族を直接知る身としては、複雑な心境だった。白い翼は滅亡した種族の証で縁起が悪いし、自らの出生が原因で神族を滅ぼしたと自責の念に縛られたデュオの心も気になる。だがシフェルの心配を他所に、デュオは飄々とした物言いで切り返した。
「”天使”の心を持つヒイロにぴったりだよな♪」
「ええ、本当に」
　相槌を打つサリファが、甘いチョコケーキを差し出す。ぱくりと齧り付くヒイロの頬に付いたチョコクリームを、デュオが指で掬って自らの口に運んだ。ぺろり舐め取って「甘い」と唸る。
「・・・・ヒイロさんは神族の血を受け継いでいたのでしょうか・・・？」
　思いついた可能性を尋ねるシフェルに首を横に振り、デュオは即座に否定した。
「否、それはない」
　もし神族の血を受け継ぐ人間がいたとして、突然先祖返りする可能性はゼロに近い。これだけ長い歳月を経て、翼を形成するだけの強い血筋は残されていないだろう。ましてや、神族は他の種族との混血を嫌う傾向があった。人間との混血は可能な筈だが、彼らの中で人と子を生した話など聞いたことがない。
「オレの、血の所為だろ・・」
　なんでもないように告げたデュオの言葉に眉を顰めたのは、シフェルもサリファも同じだった。しかしヒイロは何も気づいていないようで、次のケーキを選んでいる。微笑んで見守るデュオの穏やかさに、結局２人は何も指摘しなかった。
　デュオは嘘をついている。それが自らの身を鋭痛で苛むのを承知の上で、魔名を捧げた唯一の主の為に嘘を吐いたのだ。その気持ちが理解できるから、何も言えなかった。指摘してしまえば、デュオの決意が台無しになってしまうから・・・・。
　ふわりと風が揺れて、頭上の梢が音を立てた。
「・・・・何しに来た？」
　冷たい声で牽制するデュオが視線を上に据える。すっきりした衣装を纏う赤毛の青年は、宙に胡坐をかいて興味深そうに見つめる。その姿は、ぎりぎり結界の外だった。
「役目を果たしに・・」
　傍観者として世界を見届け、最後まで干渉を許されない立場を与えられたレイルは苦笑する。これだけ世界の掟から外れた人間を、見届けずにいられると思っているのだろうか。確かに、魔名を与えたデュオからすれば不愉快だろうが、ヒイロを無視しては傍観者の役目は果たせない。
「・・・・レイル、どうして怒らせるような言い方するんですか」
　呆れたと顔に書いた少年は、くすんだ金髪を下げて丁寧に挨拶する。
「お久しぶりです」
「・・・・ミカエルに免じて許してやる。降りて来い」
　心得たように結界を緩めたサリファの少し先へ、ミカエルが最初に降り立った。続いたレイルがヒイロの羽に手を伸ばす。触れた瞬間、死神の手が叩き落した。
「触るな！」
「いいじゃんか・・」
　減るもんじゃなし・・・続ける前に噛み付くように怒鳴られる。
「減る！　汚れる！　穢れる！！」
　子供みたいなデュオの姿に肩を竦めて、相棒であるミカエルに目を向けた。少し考え込むように目を伏せた少年は、すぐに溜め息をついて首を横に振った。
「間違いなく・・・本物です。神族と同じ翼、もう存在しない筈なのに・・」
　生まれた時は自らの背にも同じ白い翼を負っていた。だからこそ見間違えることはない。元神族であるミカエルの断言に、レイルが「そうか」と呟いた。

　風が揺れる。
　大地は静かに沈黙を守りながら、来るべき瞬間への恐怖に凍えていた。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　なにやら不吉な予感ビシバシです！　でもヒイロ、飛べるようになってよかったね♪　というか、きっとデュオも何も教えられないダメ教師役だったのではないかと（笑　だって、翼で飛んだことないんだもんね（苦笑
　だんだんと核心に迫ってきます。もうすぐヒイロの翼が１対しかない理由がわかる・・・かも？

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・分析できるようなデュオなら苦労しません。なんて言っても、彼は直感タイプなので、何も考えずに行動しています。だから敵も多い（大笑　ちなみに飛ぶシーンは今回ほとんど省きました。このまま好き放題かいていたら、いつまでも完結しないよ。このシリーズ；（爆笑