W2×1　【MiyabihimeA】

「・・・おかえり、デュオ」
　久しぶりに顔を見せた同僚は、長い三つ編みを揺らしながら恋人に駆け寄り、とりあえず「ただいま」と挨拶しながらキスを降らせる。その行為自体は見飽きている五飛とトロワだが・・・・さすがに両手の紙袋には目を瞠った。
「なんだ？　それは・・」
　指差されて気づいたようなデュオは、足元に放り出した大きな紙袋を慌てて机の上にぶちまけた。中から出てきたのは、大量のチョコレートとココアパウダー、生クリームやヨーグルトetc.
「バレンタインチョコ渡してなかっただろ？　もうホワイトデーのが近いけどさ」
　作って渡そうと思ったんだよ。
　気軽に告げるが、ここは政府直属の情報機関『プリベンター』の本部ビルである。しかもガンダム・パイロット達に宛がわれた部屋は『国家公安機密情報保持保安緊急事態対策室』―――舌を噛みそうな名前に相応しい機密を扱う場所だった。
　にもかかわらず、甘い香りが漂うのは・・・・どうだろう？
「今日のオレは一味違うぜ」
　よくわからない宣言をするデュオの背中に、思い出したように五飛が尋ねる。
「貴様、任務はどうした？」
　にやりと笑ったデュオが、胸ポケットから携帯端末を取り出してひらひら振って見せた。
「大丈夫、シフェルに任せたから！」
「・・・・・・・・・・」
　無言で顔を見合わせた五飛とトロワはそれ以上の追求をしなかった。今までに似た場面で幾度も声を荒げたが、効果の出た試しがない。疲れるだけ損というものだ。
　元軍事基地に集まった傭兵集団を監視する業務を、スイーパーの部下に押し付けらしい。彼らが理解したのは、その部分だけだった。
　長期任務で２月１日から本部に顔を出す暇もないほど忙しかったデュオだが、どうやら我慢できなくなったようだ。ヒイロの顔を見に来るついでに、チョコを作ろうと考えた。監視を部下に任せたのは、非常にデュオらしい作戦だ。考えが単純だと罵るのは簡単だが、誰が見ても突（つつ）く隙がないよう完璧に整えられている筈だ。少なくとも書類上と任務の結果が帳尻合えば、レディを含めて誰も文句を言わない。
　ある意味、平和になった世界で我が世の春を一番謳歌している男だろう。
　手際よくチョコを湯煎で溶かし、生クリームを混ぜて冷やす。隣でヨーグルトの水分を絞りながら、冷やしたチョコを丸めていく。手際のよさは、一流パティシェに匹敵した。
　本当に器用貧乏な男である。
「・・・俺もやる」
「はい、それじゃ丸めてくれる？」
　デュオと付き合うようになってから、新しいことに興味深々のヒイロが手を伸ばし、子供の泥遊びのようにチョコを丸め始めた。しかしそこはヒイロ・ユイ、さすがは一流エージェントだ。肩書きに恥じぬ完璧な円を作り出し、嬉しそうに並べていく。
　水分の抜けたヨーグルトに僅かの洋酒を垂らし、ビターチョコを混ぜて生チョコを作る。型に流し込んでいるところをみると、そちらはすぐに食べないようだ。
　ヒイロの作ったチョコ玉をビターチョコにくぐらせ、上からココアパウダーを塗す。出来上がったトリュフの見事さは、店頭でも完売間違いなしの美品だった。
「さあ、お茶の時間にしようか」
　チョコがついた指を舐めるヒイロの頬に甘いキスをプレゼントし、出来上がったトリュフを皿に盛ってヒイロに持たせる。両手を洗ったヒイロが慎重に運ぶ姿は、爆弾処理の際より緊張感に満ちていた。
「紅茶はアールグレイでいいか」
　トレイにポットやカップを並べ、デュオはさっさとヒイロの隣に陣取った。艶やかな黒髪を一撫でしてから、香りのいい紅茶を注いで各人の前に並べる。
「あ～ん♪」
　デュオが摘んで口を開けるように促せば、疑う様子もなくヒイロがぱくりとチョコを口に含む。もぐもぐ咀嚼して笑顔になる様は非常に可愛いのだが・・・・五飛は小さく溜め息をついた。
　エージェントたるもの、他人の手から渡された食べ物には警戒すべきだろう・・・と。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ひな祭りになりましたが、バレンタイン＆ホワイトデーネタ・・・・季節ずれ過ぎ（苦笑
　
【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・ほほほほっ、デュオが痛い分には平気♪