W2×1　【MiyabihimeA】

　ずっと聞きたかった質問だった。最初にデュオが逃げなければ、こんなに悩まずに済んだのだと、ヒイロは目の前の不誠実な男を睨みつける。
　相変わらずの三つ編みを指先で弄り、デュオは青紫の瞳を逸らした。
「逃げるのは、オレの十八番だぜ。責めるのは筋違いだろ」
　自分の不実さを棚に上げた受け答えに、ヒイロの瞳が眇められる。殺気に似た鋭い気配に身構えようともせず、デュオはじっとヒイロの視線を受け止めていた。
　久しぶりに見る蒼い海の色が、心の中に染みてくる。同じ色など存在しないのではないか？と思う程、深くて美しい色だ。
「告白して答えを聞かずに逃げた男が、何を持って筋違いなどと口にする」
　辛辣な皮肉に、デュオの表情から笑みが消えた。いつも笑顔の印象がある男だが、まるで別人みたいに雰囲気が変わる。冷たく無表情を張り付けた顔は、思っていた以上に整っているのだと・・ヒイロは今更ながら気づいた。
「で、ヒイロは何しに来たの？」
　まるで、おまえに用はないと言わんばかりの言い方をするデュオに、ヒイロは銃口を額にセットする。あと僅か、人差し指に力をいれたら・・デュオの命は消える状況で、ソファに座る青年に近づいた。

　逃げられないデュオは、長い睫毛を伏せて目を閉じる。
　顳に押し当てられた銃口が、冷たい感触で命の酷薄さを伝えた。トリガーを引いてくれればいい、そうしたら、楽になれる。もう逃げなくてもいいし、ヒイロに殺されるなら本望だ。
　―――――？！
　閉じた視界は情報を与えてくれない。ただ、唇に触れた柔らかい感触に驚いて目を開けば、視点がぼやけるほど近く、憧れ続けた蒼が広がっている。目を閉じないヒイロに接吻けられているのだと気づいたのは、彼がキスを終えた瞬間だった。
「ヒ、ヒイロ・・」
「返事だ。確かに伝えたぞ」
　銃をしまい、身を翻して玄関へ向かうヒイロの手を、咄嗟に握り締めた。
「えっと、もう帰るのか？」
　ヒイロを引き止める行動と裏腹に、声は掠れて情けなく小さい。聞こえるかどうかの問いかけに、ヒイロは静かに振り返った。
「ああ、用事は済んだ」
「・・・キスの意味、ちゃんと説明してくれよ。じゃないと、オレはおまえを・・」
　諦められない。
「諦める必要があるのか？」
　少し笑いを含んだヒイロの余裕を、ソファから立ち上がったデュオが抱き締めた。幻じゃない、本物のヒイロを腕に閉じ込め、デュオはいくつも黒髪にキスをして・・・迷った末に唇を重ねる。
　しっとりと柔らかい唇は、薄く開いて受け止めてくれた。拒絶されるだろうと思っていたのに、ヒイロの唇も体も、心も―――自然にデュオを受け入れる。
「デュオ」
　濡れた唇が名を呼ぶ。
　促されたデュオは緊張に喉を鳴らしてから、抱き締めた愛しい人に囁く。
「愛してる、ヒイロ。ずっと一緒にいて欲しい」
　以前と同じ告白に、今度は逃げずにヒイロを見つめる。腕の中の美しい人は、じっと蒼い瞳で見つめ返してきた。
　1年の間についた、僅かな身長差は5ｃｍ。視線の高さが違う。
　少し時間を置いて、背伸びしたヒイロの接吻けが届いた。
「俺もだ、一緒に暮らそう。デュオ」
　1年前に貰う筈だった答えに全開の笑みを浮かべ、デュオはヒイロに深く接吻けた。



「最初から逃げる必要なかったんだな・・」
　感慨深げなデュオの呟きに、ヒイロは怠い体を起こしてデュオの頬をつねった。
「手間をかけさせた詫びを払ってもらうぞ。1年も利子がついている」
「いくらでも、ヒイロの望むままに・・」
　シーツの中で横たわる肢体に刻んだ所有印に、もう一度キスを降らせる。擽ったそうに首を竦めたヒイロの幸せそうな表情に、デュオは作り物でない笑顔で応えた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　END.

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　BLシーンは省いちゃったよん！
　何故なら、会社で書いてるから恥ずかしいのさ。突然お客さん入ってきたら、マズイだろう？いろいろと（笑）