W2×1　【MiyabihimeA】

「・・・どういう事ですって？　見ての通り、失敗しただけよ」
　突き放した言葉に、２０代の愛らしい顔立ちの女性が声を荒げる。
「失敗なんて冗談じゃないわ！　どうするのよ・・」
「・・人質すら奪われたこの状況で、これ以上の作戦遂行は無理でしょう」
　全身を黒で覆った長髪の青年が、静かに意見を述べた。隣で茶髪の少年も頷き、震える手で煙草に火をつける。幹部の慌てふためく姿に一瞥をくれると、サラは落ち着いた仕草でマニキュアの続きを塗り始めた。
　柔らかいブラウンが爪を染めていく。綺麗な形に切りそろえられた爪は、口紅とそろいの色で蛍光灯の人工光を反射して輝いた。
「サラ・ミレイユ様！」
　フルネームで呼ばれ、物憂げにサラは顔を上げる。可愛らしい仕草で溜め息をつき、彼女は乾いたマニキュアの爪を指で弄くる。
「私の計画に賛同しておいて、今更何を騒いでいるの？」
「・・・・スイーパーのトップを下りていただきたい。あなたがトップでは、組織はおしまいだ。後は我々が引き継ぐ。あなたはもう必要ない」
　白髪の牢時の言葉に、他の４人の幹部も一斉に顔を見合わせる。決意したように、一緒に追従の眼差しをサラに向けた。
「・・ごめんなさい。よく聞こえなかったの、もう一度お願いできるかしら？」
　サラはにっこりと笑顔を浮べて、セリフを促す。それがどれだけ恐ろしい事か、幹部達は肌で感じつつも己の破滅を招く言葉を繰り返した。
「サラ・ミレイユは、スイーパーにはもう不要の人間だと申し上げました」
　テーブルに肘をついたサラの口元の笑みが深くなる。邪悪な気配を纏った笑みは、普段の無邪気な姿からは想像もできなかった。
「そう・・・」
　静かに立ち上がり、サラは右手の人差し指に嵌る金色の指輪を左手で強く擦った。裏に仕込まれた警報システムが作動し、ドアは乱暴に開かれる。
　　バタンっ。
「彼らを捕らえて・・・いいえ、殺してもいいわ。もう必要ないものね」
　冷酷な命令を下し、美しい微笑でエージェント達を見渡した。自らの指揮下で育てたエージェント、彼らはサラの命令でしか動かない。
　幹部は全員知っている事実。エージェント達を止められるのは、彼女だけなのだ。
「お・・お願い、助けて！　死ぬのは、・・ぃやよ・・・！！」
　悲鳴じみた叫びを上げたのは、４０歳になろうかという女性だった。貴婦人と喚ぶに相応しい、落ち着いた雰囲気は鳴りを潜め、優雅に結われた髪を振り乱す。見苦しい懇願の姿に、サラは眉ひとつ動かさなかった。
　命乞いするくらいなら、最初から反逆の意思を示さずにいればいいのに・・・馬鹿ね。従う人間には寛容だけれど、一度反旗を翻した者は必ずまた裏切るわ。だから、許してなんてあげない。
　・・・・・私の身が危うくなるだけだもの。
　エージェント３人の手から、銃口が幹部達へ向けられた。命令を待つ彼らに、サラは頷いて見せた。だが、すぐに思い出したように付け加える。
「ああ、苦しめないでね？　彼らも役に立ったのだし、残酷な殺し方は私の趣味じゃないの」
　１発で確実に仕留めろ。そう命じる彼女に、感情がなく作られたエージェント達は無言で従う。
　デュオの教育を担当した者を集めて育てたエージェントは、さらに厳しく感情も理性も奪われていた。それがサラの望む手足だったのだ。
　ゆっくり立ち上がり、背後で懇願する幹部達を置いて部屋を後にする。何が起こるのかをすべて承知の上で、彼女はそれでも微笑みを絶やす事はなかった。
　銃声はない。サイレンサーの音はここまで届かないが、それでも悲鳴が結果を伝えてきた。
　利用しようとして、利用された者の末路―――相手が悪かったのか。判断がつかないままに、彼らは悲惨な室内に”物言わぬ骸”として横たわる。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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【拍手コメント御礼】　lycaさま・・・ささやかながら送らせて頂きました。ただでさえ細くて心配なので、体調には気をつけてくださいませ。ホ・・・ホワイトデーですか？　期待してお待ちしています♪　←え？！
　もるもっち様・・・感想が途中から文字化けしてました・・・；　でもあらかたの意味は解読（？）しましたので、後安心ください。次の新刊はヒイロがデュオを利用する予定なのでお楽しみに♪　←どんなのよ・・・というか、対になってるので；