W2×1　【MiyabihimeA】

　予想される被害の大きさに、さすがの彼らも言葉がなかった。
　何もいえる筈が、ない。これだけの惨事を引き起こすのは、結局天災ではなく人間なのだ。たった１人の人間が起こす災厄が、人類全体を滅ぼせる―――。
　恐ろしい現実だった。
　彼女は、自らの命すら弄んでいるのだ。他人の命に重みを感じられない心は、破滅への道連れに人類すべてを望んだのだろうか・・・・。
　指先から力が戻り始める。脱力した体の先から震えが始まり、ゆっくり握り締める力が戻った瞬間、ヒイロは再びキーボードを叩き始めた。　プリントアウトの支持を受けたデータがはじき出され、そのまま通信回線を開いて、カトルの端末へ接触を図る。込み合う回線を何とか繋いだが、通信に出たのはカトル本人ではなく五飛だった。
「・・・・まだ、会議は終わらないのか」
　五飛に確かめるヒイロの声が低い。苛立ちを含んだ声に、彼は小さく頷いた。
「・・・そうか」
　ヒイロの後ろからトロワが零す。溜め息交じりの言葉に、五飛も苛立たし気に唇を噛んだ。
「悪いが、俺たちは先に動く！　カトルにはそう伝えてくれ・・」
　ヒイロの決断に、トロワも同調の頷きを見せた。
「わかった・・気をつけろ」
　自分も動きたいのだろう、五飛は小声で賛同の意を伝えてくる。カトルの護衛さえなければ、きっと一番に飛び出した筈の五飛に、ヒイロは何も言わずに回線を切った。
　五飛の気持ちは痛いほど・・・わかる。どうしようもない程に膨らんで、心を痛めつけるのだ。自分だって、この任務さえなければ、とっくにここを飛び出している。実際、他人の命などどうでも良かった。
　本当に大切なのは、デュオだけだ。
　本音では今すぐ彼を助けに行きたい。それ以外の人間がどうなろうと、たとえ人類が滅びようと構わなかった。
　だが―――デュオは怒るだろう。どうして見殺しにしたのかと・・・だから今は行けない。
　デュオを信じるしかない。あいつが俺を残して死ぬ筈がない！　そう信じるしかなかった。
　無言で通信を切ったヒイロを、トロワは痛々しそうに見つめる。ヒイロの気持ちはよくわかるつもりだった。よく我慢している方だと思うし、自分の立場をよく理解している。
　ガンダム・パイロット５人のうち、デュオが捕まり、カトルは会議で動けない。五飛も事実上の戦力として期待できなかった。となれば、今はヒイロと自分しかいないのだ。
　ヒイロが短慮から動いたら、その方が敵には思う壺だろう。ならば、どんなに辛くても我慢するしかないのだ。
　残酷な状況を強いているのは、十分承知している。恋人の危機を知っていて助けに行けないのが、どれだけ辛いことか・・・・。
　だが、自分達は普通のエージェントではない。コロニーを守る為に、ガンダムを負かされた象徴的な存在なのだ。自分の大切な人を守るより、コロニーの住民の平和な生活を優先させなくてはならなかった。
　ヒイロもそれは十分に解かっているのだろう。でなければ、とうに我慢の限界を超えている筈だった。彼に気づかれないよう溜め息を漏らし、トロワは厳しい表情で被害予測データを見つめた。
　すでに、Ｌ２コロニーだけの問題ではない。地球や他のコロニー群を含め、人類の存亡にまで事件は拡大してしまった。
　私情を挟む余地はない。
　今は、どうしようもない・・・・のだから。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　途中までＵＰして忘れていたことを、先日指摘されまして・・・慌てて続きをＵＰしていますが、もちろんキリリクやお題を書かないわけじゃないんですよぉ？　←なぜ疑問系・・・。

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・突然飛びました。大丈夫！（←え？）　キリリクも書きますから！　←仕事しろよ、少しくらい；