W2×1　【MiyabihimeA】

　不敵な笑みを浮かべたまま、デュオは軽く肩を竦めた。どきりとしたヒイロが隣の男を仰ぎ見て・・何かに納得したように目を伏せる。その口元には薄い笑みが浮かんでいた。
「撃てばいいだろ・・・・ほら、やらないのか？」
　逆に犯人を嗾けるデュオの態度は余裕綽々で、子供を盾にしたテロリストの方が焦ってしまう。ここで子供を殺せば、すぐに自分も撃ち殺される・・・そう判断した男が子供の顳に押し当てた銃口を下げ、足にセットし直した。これなら、まだ人質の命は奪わなくて済む。
　男の中に、子供を殺す罪悪感などなかった。だが、人質の生存こそ己の命綱だと考えるだけの計算高さは持ち合わせている。足を撃たれた子供が泣き叫べば、目の前の連中も考えを改めるだろう。その程度の考えで軽くトリガーを引いた。
　――――銃声は響かない。
　代わりに聞こえたのは、カチンという弾切れを示す撃鉄の音だった。
「・・・・・・・そんなッ！」
「撃った弾数くらい把握しろ」
　目を見開いた男の額に、距離を詰めたデュオが銃口を押し当てる。同時に動いたヒイロが子供を奪い取り、安全を確保した。ごりっと頭蓋骨に響いた恐怖に、彼の顔が青ざめる。
　先ほどデュオが突入した際に響いた銃声は十数発―――その大半が、この男の銃から発射されたものだった。彼の持つ銃に弾が残っていない事を知っていたからこそ、デュオは他のテロリストを先に撃ち抜いたのだ。危険なターゲットから倒すのは、戦いのセオリーなのだから。
「バカな奴・・・・トリガーを引かなきゃ、許してやっても良かったのに・・」
　いっそ優しいくらいの声で告げて、トリガーを引き絞る。
「デュオ、そろそろ許してやれ」
　失禁してるぞ。
　ヒイロの指摘に苦笑したデュオがトリガーを離して安全装置をかけると、男は「ひひっ」と奇妙な笑いを漏らしながら座り込んだ。しばらく使い物にならないだろう。
「任務完了・・・かな？」
　ぐるりと見回したデュオの青紫の瞳が細められ、一瞬で見開かれた。自分ではなく、ヒイロへ向けられた銃口に気づいて走り出す。伸ばした手でヒイロを子供ごと抱き込み、床に転がった。
　すでに撃ち抜いたテロリスト、床に転がっていた男が銃を握る右手を、サイレンサー付の銃で撃つ。床に伏せた状態で敵を排除した。
　　パンッ！
　軽すぎる銃声が響き、武器が小銃だったことを知らせる。左肩から着地したデュオが、身じろぎして小さく呻く。したたか打ち付けた肩と背中が痛かったが、腕の中の恋人の安全の方が気になった。右手をついて座ったデュオが心配そうに覗き込む。
「ヒイロ、無事か？」
「・・・ああ、だが・・」
　言葉を濁すヒイロに、まさか子供がケガをしたのかと青ざめた。身を起こしたヒイロが腕を放せば、子供は泣きじゃくりながら床に座る。そのヒイロの腕が赤く濡れていることに、デュオは言葉を失った。
　　パチンッ！
　頬に感じた痛みに、青紫の瞳を見開いたデュオが右手を頬に添える。平手で軽く叩かれた頬は、ほんのり赤くなっていた。触れた手が濡れていることに小首を傾げるデュオの腕を掴み、ヒイロは大きな溜め息を吐く。
「お前が無事じゃない」
　悲しそうに言われ、自分の右上腕部を掠めた銃弾の傷に視線を落とした。たいした傷じゃない。数日すれば痛みも感じなくなる程度の、ケガとは呼べないもの・・・。
「・・・・あの・・」
「任務は完了だ」
　切り捨てるように言われ、叱られた犬さながらのしょんぼりした態度で俯く。ヒイロと子供を守ることしか考えられなかった一瞬が、どうやらヒイロを怒らせてしまったらしい。項垂れるデュオの右腕を包帯で簡単に止血し、ヒイロはようやく笑みを浮かべた。
「・・・死神返上できそうだな」
　全員生きている。そう微笑んだヒイロに、デュオは小さく頷いて同じように口元を緩めた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　超鋭角的・・・？　それって通常考えられないくらい鋭い指摘ですよね？？？
「撃った弾数くらい・・・」とテロリストに指摘しておいて、今度は自分が「お前が無事じゃない」とヒイロに指摘される・・・でぉは天性のおバカです；
　ですが・・・「死神返上」できるかどうか。今回たまたま死体がなかっただけだし（笑

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・コメントが追記できて、ちょっとびっくり（笑　でも平気ですよ。途中で切れたまま続きがこないと「・・・・え？」ってカンジで気になって夜も眠れませんが←大げさ（自爆
　途中でヒイロさんがデュオを信じなければ、逆にヒイロに撃たれる可能性もありましたが・・そこは一目惚れの”愛”で乗り切ってもらいました（大笑