W2×1　【MiyabihimeA】

「・・・”死神”か」
　ぽつり呟いたヒイロの声に、デュオがびくりと肩を震わせる。お茶を淹れると零して立ち上がった彼の背中は、とても小さく見えた。迷子の子供のように・・・・。
　評判は聞いていた。有名な男の名だ。優秀なエージェントであるのに、どこの組織にも所属しない。フリーだが、虐殺やテロに絡む仕事は絶対に請けないのだと―――。いつだったか、あの五飛が褒めたことがあった。余程のことがなければ人を褒めない彼の言葉に、かなり驚いたのを覚えている。テロリスト掃討に関与しながら、最後まで姿を見せずに任務を完遂した”死神”が、本当にデュオなのだろうか。
　先ほどの実力を見る限り、文句のつけようがない能力と技術を持っている。その優秀さと裏腹の、嫌われ方は何だろう？
　爆弾を解体した功労者だというのに、通路や本部で会う人間は全員がデュオを避けた。手の届く範囲に入らないよう、腫れ物に触るような扱いをする。陰口を叩かれ、それでもデュオは毅然とした態度で報告を済ませた。その態度は、まるで”いつものことだ”と物語るように淡々としていた。否、実際いつも同じなのだろう。シフェルと名乗る彼だけが、普通にデュオと接しているように見えた。
「コーヒーにしたけど・・・」
　躊躇いがちに差し出されたコーヒーを引き寄せ、カップを口に運ぶ。無言のヒイロに何を思ったのか、南側の絨毯へ座った彼は三つ編みの先を弄りながら口を開いた。
「あのさ・・別に騙すつもりじゃなくて・・・・知られたくなかっただけ、なんだけど・・・・ゴメンな」
　素性を明かさなかったことを謝罪するデュオは、手元のカップを見つめている。目を伏せた表情に、彼の睫毛が長いことに気づいた。震える睫毛がさらに伏せられ、ゆっくり瞬きするデュオが意を決したように顔を上げる。
「仕事が仕事だから・・・出来るだけ親しい人間を作らないようにしてきた。でも・・・・どうしてもヒイロと一緒にいたかったんだ。知られたら嫌われると思ったから、嘘がない範囲で隠して・・・・・ゴメン」
　再び謝ったデュオに軽く溜め息をついたヒイロに、彼はびくりと体を震わせた。呆れられたとでも考えているのだろうか。何も言わずに立ち上がれば、泣き出しそうな顔で顔を伏せてしまう。
　自信たっぷりな夜の姿が嘘のようなデュオの隣に膝を着き、そっと手を伸ばした。触れた頬が濡れていないことに安心しながら、ヒイロは羽のような軽さで唇を触れさせる。
　突然のキスに驚いたデュオが目を見開く。青紫の稀有な色が目の前に広がって、ヒイロの顔に笑みが浮かんだ。
「何をそんなに心配している？　別に怒ったわけじゃない」
　慰めるような仕草に、デュオは眼を瞠り・・・続いて床に視線を落とした。
「あの・・・今のキス・・・・」
「嫌だったか？」
「そんなことない！」
　力いっぱい否定するデュオの頬を撫ぜながら、ヒイロは胸に満ちていく温かな感情を持て余していた。初めての感覚だ。三つ編みの先を軽く握って、探し出した思いを言葉にした。
「俺はお前が好きだ」
「へ？・・・・・・・好きって・・・・・」
　間抜けな反応を見せた男前の顔を引き寄せて、唇を合わせる。先ほどより深く、この思いが伝わるように願いながら重ねた唇は、やがて濡れた音を響かせて離れた。
「ありがとう、ヒイロ」
　微笑を浮かべたデュオの笑顔は切ない色に染まり、青紫の瞳は決してヒイロを見ようとしなかった。迷惑なのかと口を開きかけたヒイロに先んじて、”死神”の名を背負うデュオが告白を始める。
「でも・・オレの話を聞いたら、考えが変わると思うぜ。”死神”の噂は知ってるだろ？」
　前半部分に反論したかったが、キツい光を宿す眼差しに気圧されて頷く。そんなヒイロへ優しい笑みを浮かべ、穏やかな口調で続けた。
「見境なく人を殺し、味方の命まで奪う―――否定のしようがない。事実だからな・・」
　ヒイロの脳裏に浮かんだのは、さらに汚い言葉で醜く装飾された噂の数々だった。己を呪う様に淡々と話すデュオを止めたくて、ヒイロは言葉を探す。
「だが・・お前の傍に残ろうとした奴もいた筈だ」
　これだけ魅力的な男だ。命を懸けても手に入れたいと望んだ人間がいた筈だ、そう考えたヒイロは地雷を踏んだことに気づかなかった。
　一瞬でデュオの瞳の色が暗くなる。紫藍に翳った目を、彼は左手で覆った。震える右手がカップのコーヒーを揺らす。
「ああ・・・死んじまったけど」
　誰も残らなかった。離れていく人はもちろん、残ろうとしてくれた人も・・・誰も傍にいない。今１人でいることが、すべての答えだった。親しい人を作らなければ、もう悲しい思いをしなくて済む。
　泣きたいくせに笑顔を崩さないデュオの頭を、そっと引き寄せて抱いた。まだ震えているデュオの指が、ヒイロを押し戻そうとする。
「・・・だから・・」
　言いたくないことを言おうとする口を塞いでしまう為に、ぎゅっと抱き締めてブラウンの髪に頬を押し付ける。ヒイロの行動に戸惑うデュオが唇を噛んだ。
「それでも離れない」
　ヒイロが強い口調で言い切る。浮かんだ涙を誤魔化すように、デュオは首を横に振った。
「俺が簡単に死ぬと思うか」
　肯定も否定も出来ないデュオの両頬に手を当て、自分と視線を合わせたヒイロが微笑を浮かべる。息を呑んで見惚れる男へ、黒髪を揺らして小首を傾げた。
「それで、明日の予定はどうする？」
　尋ねられたデュオが不思議そうな顔をする。
「今日はこのまま泊めて貰うが、幸い明日は休みだ。お前も休むだろう？」
　確信犯の笑みで口元を歪めたヒイロへ、ようやく表情を改めたデュオがキスを贈った。頬と額、唇に触れるまで・・・・。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　・・・足りないよ、いろいろと足りないよ！　エロもないし、死神の設定生きてないし、ついでにヒイロから告白されるなんてデュオは生意気だ！！←最後は関係ないかも；
　続いちゃうね、こりゃ・・・・（苦笑

【拍手コメント御礼】　もるもっち様・・・設定引き継いで、あと10話書きます；　終わりませんでした（涙　冷たい手の真相はまた後日！