W2×1　【MiyabihimeA】

「カトルも紅茶でいいか？」
　デュオの確認に、頷いてソファに座る。
「ありがとう」
　差し出された紅茶のカップを手にしながら、整理整頓された部屋を見回す。ホテルの人間が顔を顰めるほど散らかると想像していたカトルにとって、この現状はあまりに意外だった。
「これ、仕上げた曲だから」
　差し出された譜面を受け取り、一通り目を通す。カトル自身もバイオリンやフルートを演奏するので、譜面を見れば曲のイメージは掴める。ロック系の曲が２曲、バラードが３曲、ウィングが得意とするハードなアップテンポのポップスが５曲、ジャズに近いもの１曲、最後は賛美歌に似た雰囲気の曲だった。
「録音は明日だと聞いているが、オーケストラの手配は間に合うか？」
　確認するトロワに、譜面を見たままカトルが頷いた。
「ええ、間に合わせますが・・・最後の曲にオーケストラを？」
「普段と違う感じで、話題沸騰だろ」
　くすくす笑うデュオの隣で、曲のイメージモデルであるヒイロがケーキを口に運ぶ。白いクリームがついた頬に、デュオの唇が触れてクリームを拭う。
「結構美味いな」　
「お前も食べるか？」
　あ～ん、甘い雰囲気で食べさせて貰っているデュオを横目に、カトルは口元を綻ばせた。
「これは素晴らしいですね。初版からミリオンで行きましょう」
　思いがけない提案に、トロワは目を瞠って前髪を掻き上げた。
　驚いたヒイロの差し出したケーキは、デュオの唇の手前で止まっている。ぱくりと自分から口に含んだデュオを呆然と振り返るヒイロの耳に、恋人の浮かれた声が飛び込んだ。
「そりゃいい、ついでにライブもやっちゃうか！」
「すぐに手配します。レコーディングは明日から４日間、発売は１０日後ですから！　ライブはその後で」
　言い置くと、カトルは背後で控えている秘書に譜面のコピーを取るように命じた。それから嬉々として写真を取り出す。机の上に並べられた１５枚は、どうやらアルバムに使う写真らしい。
「この写真を使うので確認しておいてください」
　斜めの角度から撮影されたデュオの写真に手を伸ばし、ヒイロが真剣な眼差しを向ける。その表情が物語る我が侭に、苦笑したカトルが折れた。
「ヒイロ、それ・・差し上げます」
「いいのか！？」
「ええ、データはこちらにありますから」
　嬉しそうにいそいそと写真をしまう恋人が可愛くて、デュオはヒイロを引き寄せた。満面の笑みで頬にキスを落とし、幸せそうに目を細める。
「今日は豪華ディナーで乾杯だ。トロワ、五飛も呼んじゃえよ。カトルも付き合えるんだろ？」
　多少強引なデュオの言葉に、トロワは恋人へ電話をかけ、カトルは静かに頷いた。

　無事レコーディングも終わり、発売日前日という夜―――。購入したばかりのマンションで、デュオは出来上がったばかりのＣＤを聞いていた。思ったより甘かったワインに顔を顰めつつ、フローリングに敷いたラグの上で寝転がる。
　最後の曲は、オーケストラのお陰で賛美歌に近い雰囲気に仕上がった。夜明けの光を浴びた、美しい黒髪の恋人を思い浮かべる。徹夜明けの早朝見たヒイロの憂い顔に、湧き上がったメロディは神に捧げて遜色ない荘厳なものだった。
　もちろん最愛の恋人へ向けたデュオの賛辞なのだから、神に捧げる気なんてないが・・・・。
　神聖な気持ちになるのは、あの輝くような麗しい姿を思い出すからだろう。神を信じないデュオだが、信仰とはこんな気分なのかと曲に身を委ねる。
　――――ピンポーン。
　飛んでいた意識を引き戻す無粋なチャイムに、デュオは青紫の瞳を物騒に眇めると、舌打ちして立ち上がった。ドアまで歩く足取りにワインの酔いは感じられない。
「はい・・・って、アンタ誰？」
　新しく購入したばかりの部屋に尋ねてくるのは親しい人間だけ、という先入観からドアを開けてしまい、デュオは見覚えのない女性の姿に眉を顰めた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　あらら？　マンションに女性？　嫌だなぁ・・・デュオったら！　ヒイロにフられちゃうぞ！！　
　・・・なんで、このシリーズ続いてるんだろう・・・・とか、ふと思ってしまいました。読んで楽しい人いるのかな？　いたら拍手でもいいので押してやってください。
　ちなみに、デュオはヒイロを神様というより・・清らかな天使だと思っています（爆笑
　今回のヒイロの性格は、小悪魔入ってくる予定だけどね・・汗；
　さあ、天国から地獄へのジェットコースターＳＴＡＲＴです！　←期待を煽って平気か？綾雅；