W2×1　【MiyabihimeA】

　美男美女ばかり、それも妙齢の麗人が揃う城内は目に嬉しい。
　一番の美人はヒイロだけどな♪
　自分より一歩先を歩く黒髪の美人へ、柔らかな笑みを向けた。誰もが一歩引いて首を垂れるのは、ヒイロが一族の当主であり”純血種”だからだろう。
　吸血鬼という種族は、特権意識が強かった。純血の王を戴き、貴族階級を誇り、人間を家畜として蔑む。カトルやドロシー達、魔法種族も誇り高さを前面に押し出しているが、吸血鬼は別格だった。人外という点では”ヴェネガル”であるデュオも同じだが、人間として生活した時期が影響しているらしく、己の出自や純血を誇る気はない。
　顔を上げて、凛とした姿で歩く恋人が立ち止まったのに気づき、デュオも足を止めた。
　薄い布を幾重にも重ねた天蓋が覆う玉座が、深紅の絨毯の壇上に置かれている。竜と荊が紋章を象る玉座は、年代を感じさせるアンティークだった。吸血鬼の歴史の古さを感じさせる。煌びやかなシャンデリアの光が、人の集まった謁見の間を照らし出す。
　５段ある壇上で、椅子の左側・・・玉座から右になる場所に五飛が足を進めた。見守るヒイロが、軽く手を差し出す。反射的に手を取ったデュオへ、優美に頷いた。
「・・・デュオ、ここへ」
　五飛の促しに一瞬目を見開き、隣のヒイロに視線を落とす。瞬きで頷いた黒髪の吸血鬼が、足を踏み出した。慌ててエスコートしながら、ヒイロを玉座へ導くデュオの背で三つ編みが揺れる。
　吸血鬼にとって神聖な場所だろ？　他種族のオレが上がってもいいのか？　そう思わないでもなかったが、内心の焦りを上手に隠したデュオは堂々と振舞った。ヒイロが玉座に座るのを待って、五飛と反対側に立つ。その様はデュオが思うより、洗練されたものだった。
「ヒイロ様、お久しぶりにございます」
　黒いドレスの美女が歩み寄り、一礼して挨拶を口にした。暗赤の瞳と髪が、シャンデリアの光に光を弾く。優美にドレスを摘んだ彼女が、ふわりとその場に膝をついた。
　その仕草に、謁見の間に集まっていた吸血鬼達が一斉に傅いた。壇上にいる為、見下ろす形になったデュオが、居心地の悪さに溜め息を吐く。
「帰城されると五飛殿からお伺いしました故、馳せ参じました。ご健勝で何よりにございます」
「久しいな、カヨコ」
　名を呼ばれた黒赤の美女は、ゆっくり頭を上げた。
「”守護者”を得られたとお伺いしておりましたが、そちらの方が？」
　しゃらりと彼女の髪飾りが揺れる。艶消しの金細工に、赤いルビーが控えめに輝いていた。小首を傾げる仕草で響いた音に、ヒイロが目を細める。
「そうだ。この城は初めてだったな、デュオ」
　後半を左側に立つデュオを見上げながら告げる王に、軽く腰を屈めたデュオが答えた。
「ああ・・・・・初めてだ」
　ぞんざいに聞こえる口調に、カヨコが眉を顰める。注意しようとした彼女より早く、ヒイロが恋人の首へ手を回した。そのまま引き寄せる仕草に、苦笑したデュオが小柄な体を玉座から抱き上げる。
「ヒイロ？」
「・・・契約を」
　彼らに見せる―――眼差しが語る決意に、デュオはシャツの襟に手を掛けて引いた。抱き寄せた細い腰を右手で支え、左手で白い首を晒す。
　酔うほどに甘くて濃厚な血の味を思い出し、ヒイロの喉がごくりと鳴った。体を満たす陶酔感を予感しながら、恋人の首に回した手に力を込める。
「王？」
「・・ヒイロ様？！」
「静かにしろ」
　一喝した五飛のキツい声に、カヨコがぎりと唇を噛んだ。デュオに出会うまで、ヒイロに血を与える栄誉を得ていたのは彼女と五飛だけだった。その地位を奪うデュオの存在は、正直疎ましい。だが長老として君臨する五飛と、最愛の王の前でこれ以上の醜態は晒せなかった。
「おいで、ヒイロ」
　促す声に滲んだ優しさが、触れた肌の温もりと一緒に肌に染みる。ヒイロの唇が頚動脈の上に押し当てられ、牙を使わぬ吸血行為が行われた。それは”儀式”として”デュオとヒイロの契約関係”を一族に証明する為の行為。同時に、デュオがヒイロの所有物であると明言し、手出し厳禁を言い渡す命令でもあった。
「この男は俺の物だ。手出しは許さない」
　ハンター時代、”死神”として名を馳せたデュオが、吸血鬼に遅れをとることは考えられない。ましてや不死の民の血を引くのだ。戦闘能力においても心配はないが、長老クラスの血が濃い吸血鬼の能力は、デュオを操れる可能性があった。
　心配したのではない。
　奪われる恐怖もなかった。
　ただ・・・・所有を明言することで、この男を縛りつけたいだけ。
　ヒイロの独占欲は強く、我が侭だ。誰よりも理解しているデュオは、束縛されることを許した。極上の美貌を誇るヒイロの頬が、ほんのり桜色に染まる。生命力の強いヴェネゲルの血に潤されたヒイロの蒼瞳が、扇情的な色を湛えて瞬いた。
「五飛、部屋を用意しろ」
「用意してある」
　案内しようと踵を返した五飛に続き、ヒイロを抱き上げたままのデュオが歩き出す。ざっと割れた吸血鬼の群れを抜ける彼らの背に、突き刺さるような殺気が向けられていた。
「・・・・カヨコ様・・」
　気遣うような響きに、彼女は何も言わず背を向ける。キレイに整えられた爪が食い込む拳から、ぽたりと深紅の血が零れた。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

---

　う・・・トロワが出てない。でもちゃんと35になります。実はカヨコさんが結構重要なポジションの人なんです。今後は21と35が混じるかな・・・。でもって、最後はヤキモチ焼く”う～ちゃん”！　誤解しまくりで嫉妬発言して欲しい♪　うふふっ・・